愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
再び近づく距離

恩返しがしたい

 巴さんのお陰でお店が軌道に乗り、母もすっかり体調が戻り、私はお店を手伝いながら、時折ふと考えることがある。

 それは、お店を再び軌道に乗せてくれた巴さんへの感謝を伝える方法。

 電話口でだけど言葉では伝えたものの、それだけというのはやっぱり違う気がするけれど、彼の性格上、何かをしたところで「自分は何もしていない」と言い切るだろうし、お礼を受け取ることもしないだろうから、どうすることが一番いいのかを悩んでいた。

 それを考えてから早数週間、私の中に一つ、これが一番良いのではないかという案が思い浮かんでいた。

 ただ、それをするにはまず両親に話をしないといけないので、ある日の夜、仕事終わりの両親を前に話をした。

「あのね、私、もう一度上澤家の家政婦として、働きに出ようと思うの」

 そう切り出すと、両親は顔を見合せてから、

「お前がそれをしたいと思うなら、すればいいよ」
「上澤家の方には沢山お世話になったものね。お礼はしたけど、私たちもずっと気掛かりだったわ。侑那がそれをしたいと思うなら、そうしなさい。あちらがまた貴方を雇ってくれると言うのなら、働かせてもらいなさい」

 私がやりたいようにやっていいと言ってくれたので、翌日、私は早速上澤家を訪れた。

 久しぶりに訪れたお屋敷は、何も変わっていない。

 インターホンを押す指が少しだけ震えた。

 歓迎されるか分からないから。

 すると、インターホンを鳴らしてから一分程で玄関のドアが開き、中から如月さんが姿を見せた。

「――来栖さん、今日はどのようなご用件で?」

 相変わらず無表情で、全てを見抜くような視線を向けながらこちらへ歩いてくる。

 私は深く一礼すると、

「今日はお話があってまいりました」

 話があることを告げる。

「分かりました、それではお上がりください」

 門を開けて迎え入れてくれた如月さんの後に続いて、私は上澤家に上がって行く。
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