愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
 上澤家へ戻って来た翌日。

 身体は仕事を覚えていて、昨日よりも動けるように。

 巴さんがお仕事で出掛けているので私は頼まれていた家事を手伝っていた。

「おはよう!」

 そこへ降ってきた明るい声に視線を向けると、本堂くんが立っていた。

「おはよう、本堂くん」

 年齢が近いしフレンドリーな性格だからか、胸の奥がふっと緩むのを感じていた。

「来栖さん、こういった家事もやるんだ? 巴様のことだけをやるのかと思ってた」
「勿論、色々なことをやるよ。お給料貰ってるし、人手が足りてるとは言えないからね」
「そっか。まあ、俺もそう。送迎以外では色々使い頼まれてる」

 けれど同時に、胸の奥で小さく警鐘が鳴る。

(こういう風に話しているのも、やっぱり巴さんは気に入らないと思うのかな)

 前回は異性(高間さん)と勤務中に仲良さげに話していたことが引き金となって一度辞めているし、本堂くんにも迷惑が掛かってしまうから気をつけなければいけない。

 だから私はきちんと一線を引いた。

 周りは常に気にするし、廊下ですれ違っても巴さんがお屋敷にいる時は挨拶は丁寧に、会話は必要最低限に、笑顔も仕事用のものだけ。

 それでも、異性だとか同性だとか年齢すらもあまり気にしない本堂くんは結構ぐいぐい来るタイプだった。

「それ、重くない? 俺が運ぶよ」
「メイドさんって大変だね。尊敬する」

 だからこそ、油断してしまったのかもしれない。

 数日後の夕方、巴さんに呼び出された。

「……お前」

 低く明らかに機嫌の良くない声。

本堂(アイツ)と随分仲が良いようだな」

 どうやら仕事の合間に彼と話しているところを何度か見られていたらしく、嫌味を隠そうともしない口調に胸がきゅっと縮む中、

「誤解です! あくまで同僚としてです」

 これ以上誤解を生まないよう、言葉を選びながらきっぱり答えた。

「これからは誤解を招かないように気をつけます」

 それが、私なりの誠意だった。

 もう同じ理由で辞めさせられたりしたくは無かったから。

 けれど――

「……お前は」

 巴さんの声が更に低くなる。

「お前は、俺の専属メイドだろ?」

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「そう、ですけど」
「だったら、他の男を見るな」

 その言葉を言われた瞬間、心臓が大きく跳ねた。

(――見るな、って……どういう意味?)

 問い返すこともできず、ただ困惑だけが胸に溜まっていく。

 そして彼のその言葉がどれほど重い意味を持っているのか、この時の私はまだちゃんと理解出来ていなかった。
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