愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
 少しだけ休むように言われた私は巴さんの私室の隅にあるソファーに腰を下ろした。

 手持ち無沙汰な私の視線は自然に書類に目を落としたままの巴さんへ向いてしまう。

「……あの、巴様」

 それとなく、探るように声を掛ける。

「さっきの、“私が倒れたら困る”って……どういう意味、だったんですか?」

 軽い世間話のような調子を装ったつもりだったものの心臓がうるさく跳ねている。

 巴さんは一瞬だけ手を止め、こちらを見ないまま答えてくれた。

「そのままの意味だが?」
「そのまま……?」
「お前が無理をして体調を崩したら、仕事が滞るだろう」
「……それだけ、ですか?」

 思わず重ねてしまった言葉に巴さんは顔を上げて私に視線を移し、

「他に何がある」

 そう問い返された私は少し言葉を詰まらせた。

「えっと……その……体調を気に掛けてくださるのは、珍しいなって……」

 巴さんは少し眉を寄せて考えるような素振りを見せ、それから何でもないことのように口を開いた。

「お前は俺の専属で、代わりが居ない。倒れられたら困るのは当然だ」
「…………」
「それにお前はすぐ無理をする癖があるからな。俺の方で気に掛ける必要があると判断しただけのことだ」

 淡々とした口調なのに、不思議と優しく響いた。

「……私は、無理なんて……」
「眠いのを隠そうとして欠伸を噛み殺すところも、疲れている時に動きが少し鈍くなるところも見ていれば分かる。隠しても無駄だ」

 巴さんのその言葉に、私は驚きを隠せない。

(そんなところまで見られていたなんて)

「だから、休めと言っている。俺が許可している間くらい素直に聞いておけ」

 きっと巴さん自身はそんなつもりは無いのかもしれないけれど、こんなに甘やかされるメイドなんて、普通はいない。

「……メイドに向かって、そんなこと言うのは反則だと思います」

 小さくそう零すと、彼は怪訝そうに眉を寄せる。

「反則?」
「はい。だって……そんな風に心配されたりしては、勘違い、してしまいそうになりますから」

 勇気を振り絞って告げると巴さんは黙り込んでしまう。

 沈黙が落ちた後、少しだけ困ったように視線を逸らしながら巴さんは低く呟いた。

「……勘違いでも構わん」
「え……?」
「少なくとも、俺はお前に無理をさせたくない。それだけは事実だ」

 それ以上は言わないと言わんばかりの態度だったけれど、今の言葉を聞けただけで私は十分だった。
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