愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
縁談

気になる

 ある日の昼下がり、巴さんは書類に目を落とし、私はその傍らで淡々と業務をこなしていたのだけれど、その空気は一人の来客によって一変することになった。

「縁談……ですか?」

 ご両親から声を掛けられて応接室へ行っていた巴さんが戻って来ると、どのような方でどのような用件の話だったのかを彼が教えてくれたのだけど、突然の話に思わず聞き返してしまった自分の声が少しだけ高かった気がする。

「ああ。取引先の重役の娘でな、俺も何度か顔を合わせたことはあるが、両親同士が話を進めたようだ」
「……そう、ですか」

 胸の奥が、じわりと重くなる。

「それで……巴様は、そのお話を受けるおつもり……なのでしょうか?」
「いや、断るつもりだ」
「……でも、そんなに簡単なことでは無いのですよね?」

 私の言葉に巴さんは小さく頷いた。

「相手の気持ちは分からねぇが、何よりも両親同士が乗り気だからな」
「……そう、なんですね。とりあえず、まずは会うだけ会う……形なのでしょうか?」
「そういうことになるな」

 巴さんはあくまでも断る予定で会うだけ会うというスタンスのようだけど、ご両親は勿論、相手方のご両親も乗り気とあれば、会うだけでは済まないだろうと私は思っていた。

 その後も巴さんはいつも通りで全く動じていなかったけれど、何故か私は動揺していて仕事に集中しようとしても集中しきれていなかった。

(私はメイドで、口出しする立場じゃないけど……)

 それでもどうしても気になってしまい、その日の夜、業務を終えて巴さんの部屋から私室へ帰る前に勇気を出して口を開いた。
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