愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
「来栖 侑那です。本日からお世話になります」
「……ふん」

 名乗りながら頭を下げる私を巴さんは興味なさそうに一瞥すると、

「どうせまたすぐ辞めるだろ、雇うだけ無駄だ」

 そんな辛辣な言葉を投げ掛けた。

「そうならないよう、こちらでしっかり教育させていただきますので」
「どうだかな、いつも続かないから期待も出来ない」
「申し訳ございません」

 表情こそそのままだけど、アンドロイドのような如月さんですら、どこか焦りの色を浮かべているのが分かる。

 この家の子息だし、偉そうなのは仕方が無い。

 これまで沢山のメイドが辞めていったみたいだから、新たな人を雇っているけどまたすぐ辞めるのではないかと疑心暗鬼になるのも……まあ理解は出来る。

 私が何か粗相をしてしまったのなら、冷たく辛辣な言葉を向けられるのも仕方が無い。

 だけど、私は今日初めてここへ来て、これから仕事を始めるわけで、今はただ、名乗って挨拶をしただけ。

 それなのに、こんなにも色々言われるっていうのは、正直納得がいかない。

 でも……このくらいのことで腹を立ててはいけないし、ここは笑顔で乗り切らなければ。

 そう頭では分かっているのに、怒りがふつふつと込み上げてきた私は気付けば、

「これまでの人がどうだったか分かりませんが、私はそんなにすぐには辞めるつもりはありません! 根性だけは人よりあるつもりですから!」

 笑顔も無くし、ムッとした表情を浮かべながらそう言い放っていた。
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