令嬢は農地改革から始めるそうです 〜王都を飛び出したら人生が充実しすぎて困る〜
第13話 令嬢、揺れる恋に鍬を構える
「アメリア様に、新たな縁談が届いております」
その一言で、村の空気は凍りついた。
報告したのはリリア。届けられたのは、王都からの正式文書。
差出人――“エインワース公爵家”。
そう、かつて“開拓令嬢”を「将来性込みで口説いた」あのギルベルトの家である。
「また、ですの……?」
アメリアは鍬を握ったまま、空を見上げる。
その瞳に浮かぶのは、戸惑いではない。責任と、少しの疲労、そして……淡い痛みだった。
「これは完全に“仕切り直し”狙いですね!」
ルークが文書を持って走り込んできた。
「内容は……“カレジア村の成長に鑑み、改めて同盟を前提としたご縁談を”……とありますわ」
「表向きは丁寧だけど、内心“やっぱり使える”って思ってるやつじゃん!」
リリアが苛立ちを隠さず唸る。
「アメリア様は“誰かの飾り”じゃありませんわ!」
アメリアは静かに、クロードのことを思い出していた。
――旅の青年。――村を耕す手を持ち、未来を語る目を持つ男。――まだ“恋人”とは呼べない、けれど。
「……わたくし、この件は“自分で決着”をつけますわ」
「それって、どうするんですか?」
「相手に“こちらから会いに行く”のです」
「アメリア様、自ら!?」
「ええ、“恋も外交も、耕すもの”ですもの」
数日後。
王都・エインワース邸。
広大な庭園、磨き上げられた大理石の廊下、香水と権威の香りが漂う応接間。
そこに、鍬を携えて現れた令嬢が一人。
「久しぶりだね、アメリア嬢」
ギルベルト・エインワース。微笑は相変わらず、だがその奥の計算もまた変わらない。
「今回の申し出、嬉しく思っているよ」
「ええ、わたくしも“話がある”と思って参りました」
二人きりの応接室。紅茶の香りと静けさの中。
アメリアはまっすぐ彼を見つめて言った。
「貴方の視線には“わたくし”が映っていない」
「……なんだって?」
「貴方が見ているのは、カレジア村の成長、連盟の影響力、そして“わたくしの肩書き”です。ですが、わたくしは“個人としての関係”を築きたい。“肩書き抜きの隣人”を、選びたいのです」
ギルベルトは一瞬口を閉じ、そして笑った。
「……強くなったね。以前はもっと、迷いがあったように見えた」
「迷っている暇など、畑には与えられませんの」
「了解した。今回の話は、ここで終わりにしよう」
「ありがとうございます」
去り際、ギルベルトは言った。
「君が認めた男に嫉妬する日が来るとは、正直思わなかったよ」
その夜。
村に戻ったアメリアを、クロードが迎えていた。
「おかえりなさい」
「ただいまですわ。――わたくし、あなたに話したいことができましたの」
王都から帰還した翌朝。
村内では、さっそく“例の件”が村全体に伝播していた。
「アメリア様が王都の縁談を断って戻ってきたらしいぞ!」
「つまり“恋人候補”が決まってるってことじゃないか?」
「えっ、じゃあクロードさんが本命? え? えっ!?」
「いやそれなら、こっちで村祭りでもう一回告白イベント開こう!」
「式場ってこの広場でいいよな!?」
「勝手に進行しないでくださいませえええええ!!」
アメリア、叫ぶ。
だが村人たちは止まらない。
【村内発足:アメリア様恋愛見届け隊(勝手設立)】
・隊長:ルーク(ノリと勢い)
・副隊長:リリア(感情豊かすぎる)
・実況係:ガストン(無駄に盛り上げる)
・記録係:ゼクス(石に刻む)
・観察係:ネル(観察力が鋭すぎる)
その日、アメリアは“村のど真ん中”にあるベンチで、クロードと向かい合っていた。
(もちろん、村人たちは隠れて物陰から観察中)
「……それで、改めて言いたいことがありましたの」
「僕も、聞きたいことがありました」
二人は少し黙る。
干し芋が風で揺れる。どこかでヤギが鳴いた。
「クロードさん。あなたは、どう思いましたの? わたくしが、以前“芽吹き”には時間が要ると言ったことについて」
「……あなたらしいと思った」
「わたくし、決して“誰かに依存したい”わけではありません。けれど、“一緒に進みたい”とは思っております」
「じゃあ、僕の思っていたことも言っていいですか?」
「どうぞ」
「……君と村と未来を耕していくつもりでいました。でも、肝心の“今の気持ち”をちゃんと伝えてなかった。だから言います。アメリア、君が好きです」
「…………」
「返事は、すぐじゃなくていい」
「いえ、今しますわ」
「えっ」
「わたくしも、あなたのことが好きです」
「!?!?」
\どっしゃああああああああああ!!!!/
茂みから転がり落ちたルーク、石から転げ落ちたゼクス、感極まって泣くリリア。
「いや観てたの!? なんでそこまで準備万端なの!?」
「でも!これで!村の恋がついに!!」
「だから勝手に盛り上がらないでくださいませええええ!!!」
だがアメリアの頬は、照れと幸福でほんのり染まっていた。
その翌朝。
「村長、おめでとうございます!!」
「えっ」
広場に巨大な横断幕が吊るされていた。
『祝!アメリア様ご婚約(未確定)記念・村民大感謝祭』
「未確定の時点で“祭”にしないでくださいませええええ!!」
しかも、すでに屋台が並び、演芸ステージが建設され、干し芋投げコンテストのエントリーが始まっていた。
「完全にお祭りモードです、お嬢様……!」
「むしろ結婚式の予行演習では!?」「誰が牧師役!?」「オレが作るケーキは5段でいいか?」
「村人の“祝いたい欲”が肥大化してますわーーー!!」
【村内混乱一覧】
・リリア:泣いて祝福しては反省してまた泣くループ
・ルーク:勝手に“祝辞”を詩で準備(棒人間付き)
・ガストン:クロードに「幸せにしなきゃ腕相撲で決着つける」と宣告
・ゼクス:石で“婚約記念碑”を彫り始めた(非公式)
・ネル:既に“ふたりの未来年表”を作成済み
当のアメリアとクロードは、裏の小径で静かに語り合っていた。
「クロードさん……その、皆の反応が……過剰でして……」
「だいぶ“お祭り”ですね……」
「でも、なんだか、嬉しいのです」
「え?」
「“恋”という言葉が、村に定着してきた気がして。かつて、わたくしにとって“恋”は、不要な感情でした。責任と義務の隙間に入り込む贅沢だと、そう思っていました」
「……今は?」
「今は、“共に未来を考える相手”がいることが、日々を支えてくれるのだと、そう思えます」
クロードはゆっくりうなずいた。
「共にいるって、“重なり合う”ことじゃなくて、“並んで歩く”ことなんですね」
「並びながら、時には振り返って、支えて、支えられて。そんな関係を……築いていけたらと思っております」
そして二人は、手を取り合いながら、広場へ向かって歩き出す。
その姿を見て、リリアは声を張り上げた。
「“開拓恋愛文化”元年ですわーーーーー!!!!」
\どおおおおおおおおん!!/
打ち上がる花火(自家製)、飛び交う干し芋(無害)、奏でられる“恋の耕歌”(ルーク作詞・ゼクス編石)。
アメリアは笑いながらも、一言だけぼやいた。
「……この村、“恋の盛り上げ方”が全力すぎますわ……」
だがその笑顔は、確かに満ちていた。
こうしてカレジア村に、“恋”という文化が根付き始めた。
その一言で、村の空気は凍りついた。
報告したのはリリア。届けられたのは、王都からの正式文書。
差出人――“エインワース公爵家”。
そう、かつて“開拓令嬢”を「将来性込みで口説いた」あのギルベルトの家である。
「また、ですの……?」
アメリアは鍬を握ったまま、空を見上げる。
その瞳に浮かぶのは、戸惑いではない。責任と、少しの疲労、そして……淡い痛みだった。
「これは完全に“仕切り直し”狙いですね!」
ルークが文書を持って走り込んできた。
「内容は……“カレジア村の成長に鑑み、改めて同盟を前提としたご縁談を”……とありますわ」
「表向きは丁寧だけど、内心“やっぱり使える”って思ってるやつじゃん!」
リリアが苛立ちを隠さず唸る。
「アメリア様は“誰かの飾り”じゃありませんわ!」
アメリアは静かに、クロードのことを思い出していた。
――旅の青年。――村を耕す手を持ち、未来を語る目を持つ男。――まだ“恋人”とは呼べない、けれど。
「……わたくし、この件は“自分で決着”をつけますわ」
「それって、どうするんですか?」
「相手に“こちらから会いに行く”のです」
「アメリア様、自ら!?」
「ええ、“恋も外交も、耕すもの”ですもの」
数日後。
王都・エインワース邸。
広大な庭園、磨き上げられた大理石の廊下、香水と権威の香りが漂う応接間。
そこに、鍬を携えて現れた令嬢が一人。
「久しぶりだね、アメリア嬢」
ギルベルト・エインワース。微笑は相変わらず、だがその奥の計算もまた変わらない。
「今回の申し出、嬉しく思っているよ」
「ええ、わたくしも“話がある”と思って参りました」
二人きりの応接室。紅茶の香りと静けさの中。
アメリアはまっすぐ彼を見つめて言った。
「貴方の視線には“わたくし”が映っていない」
「……なんだって?」
「貴方が見ているのは、カレジア村の成長、連盟の影響力、そして“わたくしの肩書き”です。ですが、わたくしは“個人としての関係”を築きたい。“肩書き抜きの隣人”を、選びたいのです」
ギルベルトは一瞬口を閉じ、そして笑った。
「……強くなったね。以前はもっと、迷いがあったように見えた」
「迷っている暇など、畑には与えられませんの」
「了解した。今回の話は、ここで終わりにしよう」
「ありがとうございます」
去り際、ギルベルトは言った。
「君が認めた男に嫉妬する日が来るとは、正直思わなかったよ」
その夜。
村に戻ったアメリアを、クロードが迎えていた。
「おかえりなさい」
「ただいまですわ。――わたくし、あなたに話したいことができましたの」
王都から帰還した翌朝。
村内では、さっそく“例の件”が村全体に伝播していた。
「アメリア様が王都の縁談を断って戻ってきたらしいぞ!」
「つまり“恋人候補”が決まってるってことじゃないか?」
「えっ、じゃあクロードさんが本命? え? えっ!?」
「いやそれなら、こっちで村祭りでもう一回告白イベント開こう!」
「式場ってこの広場でいいよな!?」
「勝手に進行しないでくださいませえええええ!!」
アメリア、叫ぶ。
だが村人たちは止まらない。
【村内発足:アメリア様恋愛見届け隊(勝手設立)】
・隊長:ルーク(ノリと勢い)
・副隊長:リリア(感情豊かすぎる)
・実況係:ガストン(無駄に盛り上げる)
・記録係:ゼクス(石に刻む)
・観察係:ネル(観察力が鋭すぎる)
その日、アメリアは“村のど真ん中”にあるベンチで、クロードと向かい合っていた。
(もちろん、村人たちは隠れて物陰から観察中)
「……それで、改めて言いたいことがありましたの」
「僕も、聞きたいことがありました」
二人は少し黙る。
干し芋が風で揺れる。どこかでヤギが鳴いた。
「クロードさん。あなたは、どう思いましたの? わたくしが、以前“芽吹き”には時間が要ると言ったことについて」
「……あなたらしいと思った」
「わたくし、決して“誰かに依存したい”わけではありません。けれど、“一緒に進みたい”とは思っております」
「じゃあ、僕の思っていたことも言っていいですか?」
「どうぞ」
「……君と村と未来を耕していくつもりでいました。でも、肝心の“今の気持ち”をちゃんと伝えてなかった。だから言います。アメリア、君が好きです」
「…………」
「返事は、すぐじゃなくていい」
「いえ、今しますわ」
「えっ」
「わたくしも、あなたのことが好きです」
「!?!?」
\どっしゃああああああああああ!!!!/
茂みから転がり落ちたルーク、石から転げ落ちたゼクス、感極まって泣くリリア。
「いや観てたの!? なんでそこまで準備万端なの!?」
「でも!これで!村の恋がついに!!」
「だから勝手に盛り上がらないでくださいませええええ!!!」
だがアメリアの頬は、照れと幸福でほんのり染まっていた。
その翌朝。
「村長、おめでとうございます!!」
「えっ」
広場に巨大な横断幕が吊るされていた。
『祝!アメリア様ご婚約(未確定)記念・村民大感謝祭』
「未確定の時点で“祭”にしないでくださいませええええ!!」
しかも、すでに屋台が並び、演芸ステージが建設され、干し芋投げコンテストのエントリーが始まっていた。
「完全にお祭りモードです、お嬢様……!」
「むしろ結婚式の予行演習では!?」「誰が牧師役!?」「オレが作るケーキは5段でいいか?」
「村人の“祝いたい欲”が肥大化してますわーーー!!」
【村内混乱一覧】
・リリア:泣いて祝福しては反省してまた泣くループ
・ルーク:勝手に“祝辞”を詩で準備(棒人間付き)
・ガストン:クロードに「幸せにしなきゃ腕相撲で決着つける」と宣告
・ゼクス:石で“婚約記念碑”を彫り始めた(非公式)
・ネル:既に“ふたりの未来年表”を作成済み
当のアメリアとクロードは、裏の小径で静かに語り合っていた。
「クロードさん……その、皆の反応が……過剰でして……」
「だいぶ“お祭り”ですね……」
「でも、なんだか、嬉しいのです」
「え?」
「“恋”という言葉が、村に定着してきた気がして。かつて、わたくしにとって“恋”は、不要な感情でした。責任と義務の隙間に入り込む贅沢だと、そう思っていました」
「……今は?」
「今は、“共に未来を考える相手”がいることが、日々を支えてくれるのだと、そう思えます」
クロードはゆっくりうなずいた。
「共にいるって、“重なり合う”ことじゃなくて、“並んで歩く”ことなんですね」
「並びながら、時には振り返って、支えて、支えられて。そんな関係を……築いていけたらと思っております」
そして二人は、手を取り合いながら、広場へ向かって歩き出す。
その姿を見て、リリアは声を張り上げた。
「“開拓恋愛文化”元年ですわーーーーー!!!!」
\どおおおおおおおおん!!/
打ち上がる花火(自家製)、飛び交う干し芋(無害)、奏でられる“恋の耕歌”(ルーク作詞・ゼクス編石)。
アメリアは笑いながらも、一言だけぼやいた。
「……この村、“恋の盛り上げ方”が全力すぎますわ……」
だがその笑顔は、確かに満ちていた。
こうしてカレジア村に、“恋”という文化が根付き始めた。