令嬢は農地改革から始めるそうです 〜王都を飛び出したら人生が充実しすぎて困る〜

第2話 令嬢、村おこしをする

「人が来ませんわ!」

「そりゃそうでしょうね!?何の宣伝もしてないのに、誰が来るって言うんですか!?」

カレジア村再生計画第一段――すなわち“第一回開拓宣言式”は、無事、滞りなく、完全なる成功裏に終わりました。

……参加者三人と一匹で。

「これは問題ですわ。いくらわたくしが開拓令嬢であるとはいえ、労働力不足は否めませんわね」

「いっそ“自動で畑を耕すゴーレム”とか作れればいいんですが……」

「土壌と心は、直に触れてこそ。――とはいえ、労働力が足りないのも事実。リリア、村おこしですわ!」

「村おこしって、具体的にはどうするんですの?」

「呼び込みですわ!」

「露骨だな!?」

ですが、考えてみれば当然ですわね。呼ばなければ、誰も来ない。呼んでも来ないことだってある。それが辺境の現実。

「まずは、“村の魅力”を発信いたしましょう」

「え、SNSとか……?」

「えすえぬえす……?」

「……いえ、何でもありません」

「パンフレットを作りますわ!」

「令嬢はパンフレットも自作するんですか!?」

「農業啓蒙は乙女の嗜み。わたくし、文房具一式持参しておりますのよ!」

わたくしは、リリアが両手で持ち上げて運んでくれた“旅先でも使える! お屋敷印刷セット(羽ペン五本つき)”を広げ、羊皮紙に筆を走らせました。

【カレジア村 入村者募集案内】
☆住まい:空き家あり!改装は自分で!
☆食糧:農作物、今はまだありません!
☆水:井戸を掘ってます!(が、出てません!)
☆魅力:開拓のやりがい100%保証!
☆村長:やる気だけはある!あとフリルが多い!

「書けば書くほどマイナスに……」

「正直さは信頼に繋がりますわ!」

「たしかに真実しか書いてない!」

あとはどうやって広めるか、ですが……。

「近隣の村に自ら出向き、配りますわ!」

「行商スタイルですか!?」

「この令嬢自ら、フリルを風にひるがえしながら村々を巡り、開拓の尊さと土の温もりを説いてまいりますの!」

「……令嬢の尊厳って、地面に擦れてませんか……?」

けれど、わたくしの志は高く、足元は汚れ、心は熱く!

「ガストン、準備をお願いできますか?」

「あいよ!今、荷馬車の整備しとくぜ!ついでにこの大根、販促用に持ってくか?」

「素晴らしいですわガストン!地産品の試食配布でございますわ!」

「いや、俺が育てたわけじゃないけどなコレ……」

そんなこんなで、即席の移動式勧誘隊が出発したのでございます。

第一の目的地は、カレジア村から徒歩で半日程度に位置する“スレン村”。王都からもぎりぎり郵便が届く、いわば「文明の残り香」がある村です。

「……いらっしゃいませ……って、え?」

わたくしたちが訪れたのは、村の中心にある市場。早朝ということもあり、人の出はまばらでしたが、そこにて――運命の出会いがございました。

「まあ!リリア、見なさいあの露店!」

「野菜売ってますね」

「違います!あのドレスのレース……完全にわたくし好みですわ!」

「見てるところそこ!?」

売り子をしていたのは、どう見てもどこかの貴族風の少女。年の頃はわたくしと同じくらいかしら?薄紫の髪を二つ結びにして、軽やかな笑みを浮かべておりますわ。

「あら、貴族様。旅のお方ですか?」

「ええ、令嬢ですわ。そして、村長です」

「……はい?」

少女は笑顔を貼りつけたまま、明らかに「ヤバいのが来たわ」という目をしておりました。失礼ですわね。あとで自己紹介シートを渡しましょうかしら。

「わたくし、カレジア村村長のアメリア・ルヴァリエ。今日はこちらに、“開拓希望者募集”のご案内に参りましたの」

「カレ……ジア村……?そんな村、聞いたことないんですけど……」

「それもそのはず。今、わたくしが耕しておりますの」

「耕してる!?」

「まだ水は出ておりませんが、やる気は湧いております!」

「やっぱヤバい人だこの人!!」

「わたくしは真剣ですわ!」

そうして露店前で口論――いえ、説得を続けていると、いつの間にやら人だかりが。
わたくし、ほんとうに注目されるのは得意なのですのよ!

「な、なんだこの衣装!?フリルだらけじゃねえか!目がチカチカする!」

「この芋、なんで袋じゃなくてシルクのポーチに入ってんだ!?」

「そもそも芋かこれ!?」

「名産品がまだ無いので、雰囲気で押しておりますの!」

「雰囲気で芋を!?!?」

そんな市場のざわめきの中、わたくしの手元から配布用パンフレットが飛び交い、リリアの突貫演説(3分で覚えた)が場を盛り上げ、ガストンが大根を配りまくり、謎の即席プロモーションが成立したのでございました。

「これ……人来るんじゃないですか……?」

「ええ、リリア……これが“村おこし”ですのよ」

「ほとんど勢いと大根ですけどね!!!」

「ただいま戻りましたわーーーッ!!」

「叫ばなくても伝わりますって!」

わたくしアメリア・ルヴァリエ、カレジア村村長(自称)は、移動式村おこし隊の強行日程を経て、無事に村へと帰還いたしました。なお、馬車はわたくしの「土と近づきたい」という思想により手押し式でございます。徒歩の方が遅いけれど風情があってよろしいの。

「パンフレット……残り三枚。市場で二十枚配布、リリアの早口演説、そして……大根十二本配布」

「大根がいちばんウケてましたよね」

「大根、偉大ですわね……」

「あと、フリルつき芋はだれも受け取ってくれませんでした……」

「なぜですの!?」

「“食べるのが申し訳ない”って言われてました。デコ芋は難しいです……」

次回の販促物は、もう少し農業感を強調すべきかもしれませんわね。
そう、たとえば――泥付きのままの野菜とか。

「さて、おふたりとも。今日はもうお休みくださいな。明日からは、入村希望者の対応で大忙しになりますわよ」

「ほんとに来ると思ってるんですねお嬢様」

「この空気、絶対“来る流れ”ですわよリリア」

「“メタ読み”やめてください!」

そして翌朝。

「来ましたわ!!!」

「早っ!?!?!?」

村の入り口――と言っても、壊れかけた柵の前に、どこか都会っ子の雰囲気を漂わせた男女三人組が立っておりました。手には例のパンフレット。

「こんにちはー。ここって、ほんとに村なんですか?」

「まあ!ようこそカレジア村へ!農業未経験でも歓迎ですわ!」

「いや、俺たち別に開拓しに来たわけじゃなくて……」

「パンフレットに書いてあった“やる気100%保証”ってのが気になってさあ」

「なんか……面白そうだし?」

……不穏ですわ。

三人組は、軽装で飄々とした青年(軽い)、無口でパーカー姿の少年(影がある)、あと、勝気そうな少女(目が怖い)でございました。

「まず、お名前を伺ってもよろしいかしら?」

「俺はルーク。こっちはリィナとゼクス。三人で旅しててさ、たまたま立ち寄っただけっていうか」

「無職?」

「旅人?」

「うん。働く気は……まあ、なくもない?」

「めちゃくちゃ曖昧な表現ですわね!?この子たち、信用していいのかしら……」

「村おこしってさ、ちょっとワクワクしない?なんか、TVの企画みたいな」

「TVって何ですの……」

「ほら、すっごい大きい本とかで、魔法で映像が流れて……」

「それは《視写魔導書》ですわ!」

「名称長っ!」

どうやら彼らは、旅の途中で偶然スレン村に立ち寄り、パンフレットと大根を手にこの村に来たようです。たまたまというより、勢いとノリ。ですが、そこに可能性を感じるのが令嬢たるわたくしの勘ですのよ。

「では皆さま、“試用滞在”というかたちで、数日間カレジア村にお泊まりいただけますか?」

「何それ、試されてるの?」

「わたくしの農村には、“信頼”という名の堆肥が必要ですの。お互いを知り合う時間は、大事にしたいのですわ」

「それ、比喩表現なんですよね……?リアル堆肥じゃないですよね……?」

「ちなみに堆肥作りも今後教えますわよ?」

「やめてくれーーーー!!!」

ということで、まさかの“新規村民候補”がやってまいりました。
わたくし、手帳に“村民カウント”のページを設けておいてよかったですわ。

【現在の村民カウント】
・村長:アメリア(令嬢)
・侍女:リリア(限界)
・村人1:ガストン(元木こり・筋肉)
・一匹:ヤギ(偏屈じじいのペット)
・来客A:ルーク(軽い)
・来客B:リィナ(攻撃的)
・来客C:ゼクス(喋らない)

その日の夜、歓迎会を開催いたしました。

「ようこそ!カレジア村へ!」

「乾杯~!」

「って、お嬢様!これ“水”です!全部“水”です!」

「井戸が開通してませんもの!」

「宴会で“泥水っぽいもの”は致命的ですってぇぇ!!」

「お、お菓子は?」

「ガストンの私物の干しイモですわ!」

「おっしゃあ!!!」

「うれしいんかい!!」

雰囲気はよくなりました。ええ、とてもよくなりましたとも。

しかし、わたくしは知っております。
ここからが、村おこしの本番でございますわ。

明日、この三人に開拓労働体験をさせ、村の実態を見せる。そして、それでも残ってくれるのか――

「“初仕事”で逃げたら承知しませんわよ……」

「お嬢様の笑顔が怖いです……」

朝――。

「起きなさーいっ!!開拓の時間ですわよおおお!!!」

「ギャアアアアア!?!?!?」

「令嬢の声量じゃないですううう!!」

わたくしは“開拓用メガホン(空き缶)”を片手に、新参三人組の寝床を奇襲いたしました。
村で生きるということ、それは“朝が早い”ということ。そして、“言い訳が効かない”ということ。

「この村に寝坊の権利はありませんわ!」

「朝、五時っすよ!?まだ鳥も寝てる時間じゃないですか!?」

「むしろ鳥が目覚ましですわ!」

「どの農村にも大体“鶏の鳴き声”があるんですけど!?ここ、ヤギの鳴き声しか聞こえねぇ!!」

「失礼ですわね、そのヤギは村の治安を守っているんですのよ」

「え!?ヤギって警備担当だったの!?!?!?」

まず本日は、試用村民三名による“開拓労働体験プログラム”を実施いたします。通称、「働かざる者、村に住むべからず!」作戦ですわ。

「では本日のお仕事内容をお伝えいたしますわ!」

【本日のミッション】
・午前:畑の耕し(鍬による手作業)
・昼食:干し芋と水(新メニュー)
・午後:井戸掘り補助(体力勝負)
・夕刻:住居候補の掃除(兼・ネズミとの知恵比べ)

「地味!!!」

「健康的!!!」

「この時点で五人は脱落するレベルの合宿スケジュールですよ!?」

「……今、村人七人ですけど……?」

「うち二人は“来客”だからノーカウントですわ!!」

あえて“普通にキツい”スケジュールを組んだのには理由がございます。
村おこしとは、一夜にして達成されるものではなく、継続と誠意の果てに実る果実のようなもの。甘さの裏には、渋みと、日焼けと、腰痛があるのですわ。

「さあ、クワを持って、並びなさい」

「クワ!?持ち方からわかんないっす!」

「大丈夫、特訓用の“クワ子・ライト”をご用意しましたわ!」

「改造シリーズ増えてるゥ!?」

作業が始まり、時は流れ――。

午前の畑耕しでは、リィナがまさかの“力技”で雑草を根こそぎ引き抜き、ルークが「トンボかな?」というほどの軽い動きでクワを空振りし続け、ゼクスが黙々と畝を作り続けておりました。なお、ゼクスの作った畝が一番美しかったことは言うまでもありませんわ。

「畑、……けっこう、楽しい……かも……?」

ゼクスくん、あなた喋れたんですの!?

午後の井戸掘りでは、なぜかガストンとの穴掘り対決に発展し、ルークが「土が友達!」などと訳のわからないテンションでスコップを振り回し、リィナが「もうちょっとで水脈!水脈!」と叫んでいた矢先――。

「……あれ?冷たい?」

なんと――水が、湧きましたの!

「き、来たァァァァァァ!!!」

「水ですわァァァァァァ!!!」

「地下水よ!あなたに会いたかった!!」

「え!?ちょっと!?こんなにテンション上がるイベントなの!?」

「当たり前ですわ!水は命、開拓の源!」

「お嬢様、涙が出ております……!」

「泥と涙の区別がつかないだけですわ……!」

村に、ついに水が流れました。その瞬間、村の空気が一変した気がいたします。

“あ、この村――本気だ”

たぶん、三人の中でそう思った者がいたのではないかしら?
……ルークはともかく。

夕刻には、空き家の掃除。ネズミが四匹、クモの巣が二十箇所、そして不明な生物の影が三回確認されましたが――それでも、三人は逃げ出さなかった。

「すごい……ちゃんと、人が住めそうな空間になってきた……」

「え?リィナちゃん、テンション上がってる?」

「別に……楽しかっただけよ、ちょっとだけ!」

「おぉ……成長してる……」

村おこしに必要なもの。それは、ただの“人手”ではなく、“人の心”ですわ。
この村で何かを成し遂げたいと思える、そんな想いが芽吹くこと――それこそが、最高の種まき。

そしてその夜。

焚き火を囲みながら、ささやかな“水開通記念式典”を開きました。

「今度は……野菜も作れる……かな?」

「ええ、ゼクスくん。次は、野菜の命をわたくしたちの手で育てるのですわ」

「……畑に、俺の人生を埋める時が来たか……!」

「重い!?」

「ガストンさん、意味わかんないです!?」

「干し芋に浸ってただけで何を悟ったんですの!?」

「でも……アメリア、ありがとう。俺たち、ちょっと本気で、この村の未来が見たくなった」

「ふふ……ようこそ、“開拓沼”へ」

「沼!?」

「村が発展するほど、やめられなくなりますわよ」

「沼だぁ……」

こうして、わたくしたちの村には、新しい風が吹き込みました。

ただの偶然かもしれません。でも、“縁”とはそういうもの。
土に触れ、汗をかき、水を掘り、誰かと笑ったなら――それだけで、ここに“生きている価値”があるのだと、そう思える村を、わたくしは目指したいのです。

「では皆さま、本日最後の儀式ですわ!」

「えっ、まだあるの!?」

「明日のスケジュール発表会ですわ!!!」

「うわあああああああああ!!!!」

カレジア村、村人:6名+1匹
生活水準:ボロ屋、泥、干し芋
幸福度:謎の右肩上がり

まだまだ、村おこしは始まったばかり――!
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