令嬢は農地改革から始めるそうです 〜王都を飛び出したら人生が充実しすぎて困る〜

第26話 侍女、恋文と共に婚姻を耕します

カレジア村、午前十時。

「みなさま、本日は少々……お耳を拝借いたしますの!」

広場に響き渡るリリアの声に、畝整備中の村人たち、芋干し中の子どもたち、石板磨き中のゼクスまでもが一斉に手を止めた。

リリアは、ぎこちない笑顔を浮かべて広場の中心に立っていた。

「わたくしリリア・マールトン、このたび……このたび……っ!」

ティナ「(まさかトマトが枯れた!?)」
ゼクス「(アメリア様と喧嘩!?)」
ルーク「(いやまさか異世界転移!?)」

「……結婚することになりましたの!!!!!はい、全員びっくり芋投げストップですわーーーーーー!!!!」

会場、爆発的騒然。

「え!?え!?相手誰!?村人!?外交関係者!?まさかアメリア様の旦那様の元従兄弟の庭師の兄!?!?」

「セスティア王室付き戦略顧問、クロイ・ディラン様ですの」

一瞬の静寂。

つづく爆発。

「ええええええええええ!?!?」

アメリアは静かにお茶を飲みながら一言。

「やはり干し芋外交は、平和のみならず恋愛までも耕すのですわね」

ルーク「ねぇリリアさん!? え!?あの堅物顧問と!?“政策か文字数しか愛せない男”みたいな!?!」

ティナ「文通してたの!? どの干し芋袋に入ってたの!?!」

リリア「むしろ干し芋袋が文通ですわ!!!!!(布にインクが滲んで難解でしたの!!!!)」

ゼクス「交際履歴の整理と祝賀石板の草案を今すぐ……」

ガストン「オレに任せろ!芋の形したリング作る!!」

リリアは、顔を真っ赤にしながら一礼した。

「アメリア様の下に仕えて十年。わたくしにも、こうしてひとつの畝を……いえ、人生の畝を、耕す覚悟ができましたの!」

アメリアは優しく頷く。

「あなたの耕しは、いつだってまっすぐでしたもの」



「ということで、次の村議会の議題は“リリアさんの祝賀方法案”です!!」

ルークが掲げた提案書にはすでに20項目以上の案がずらり。

【婚約祝賀案・初稿】

芋型花束(食用可)

ゼクスによる祝辞石板(予定サイズ:縦3メートル)

干し芋婚姻証明書(インク:芋エキスベース)

干し芋スピーチリレー(読む前に食べないこと)

畝上挙式(鍬による愛の交差儀式)

芋文通展(リリア私物:要本人許可)

ティナ「この量……リリアさん、祝われる覚悟ありますか!?」

リリア「一行目からすでに胃にきておりますわ!!」

ゼクス「祝辞石板は“政と恋の統合美”をテーマに27章構成予定です」

リリア「やめてください!!!その分厚さ歴史書の類いですの!!!」

リリアは走って逃げるようにアメリアの元へ。

「アメリア様!せめて!せめて“畝の上での交差儀式”はなんとかご助力を……!」

アメリアは、こともなげに頷く。

「もちろん、干し芋型クッションを敷いた“芋畝舞台”をご用意いたしますわ」

リリア「その舞台の発想が想像以上に芋ですの……!」

その日の夕方、村の掲示板には次のような貼り紙が追加された。

【リリアさん ご婚約祝賀式典ご案内】
・場所:広場中央芋畝特設ステージ
・服装:芋色系推奨
・贈り物:心をこめた言葉か、干し芋(もしくはその両方)
・主催:カレジア村祝賀芋実行委員会

そして隅には、アメリア直筆の一文が添えられていた。

『本日も、畝と愛を耕しましょう』

リリアはそれを読んで、そっと手を合わせた。

「この村で祝われるということは……人生、芋に始まり芋に結ばれるということなのですね……」

村人たちの祝福の気持ちは、芋とともに膨らみ続けていた。

報告から一週間後。

いよいよ――クロイ・ディラン顧問、来村。

「……あの堅物が、ほんとうに……?」
「村の祝賀ステージに立つ……のか……?」
「干し芋を掲げてプロポーズしたという噂、本当なの……?」

そんな噂が広がるなか、セスティア王国より立派な馬車が到着。

扉が開く。

降り立ったのは、王室付き戦略顧問、クロイ・ディラン。

表情は、いつも通りの鉄仮面。

アメリア「ご足労ありがとうございます。お祝いの場ではございますが、どうぞお気楽に」

クロイ「光栄です。……ただし、“干し芋の色彩統一ドレスコード”に関しては、何色を着たらよいのか、やや混乱をきたしました」

ルーク「普通の人だったら、色より概念で混乱してるとこだよね!?」

ティナ「お芋色が一体何色か問題が気になったのね……」

ガストン「顧問、芋タキシード、ちゃんと着こなしてるのすごいよ……」

クロイはリリアの前に立つ。

「この村で、あなたが“人生を耕した”と知り、誇りに思います」

リリアは顔を真っ赤にしながら言った。

「文通の一行目が“文通に関するルール95箇条”だった人とは思えませんわ!!」

アメリアは微笑む。

「言葉に不器用でも、“選んだ行動”が答えでございますわね」

その晩、婚約祝賀式典に向けて最終準備が行われる中、クロイが村議会室の端でぽつりと口にした。

「……余談だが、婚姻届の署名欄に“干し芋の香り付きインク”を求められるとは想定外だった」

ゼクス「歴史的記録としては、香りもまた一次資料です」

クロイ「……なるほど」

ティナ「納得した!?顧問、ちょっと村に染まりすぎてません!?」

祝賀の空気は着々と、混沌と感動に包まれていくのだった。

祝賀式当日、朝六時。

カレジア村の広場はすでに異常な熱気に包まれていた。

「干し芋型のゲート設置完了です!」
「芋の湯気風スモーク演出、タイミングは12時30分で!」
「司会進行、芋仮面隊5号まで準備OKです!」

クロイ顧問は、式用タキシードの袖を直しながら呟いた。
「……すでに情報過多が過ぎる……」

リリアは白いドレス姿で深呼吸していた。

「わたくし、今日という日を……誠心誠意、畝に刻みますの……」

リリアがステージに立った瞬間、

\祝辞石板、開幕ッッ!!/

ゼクスが開いた石板には、全文刻まれた祝辞が27章構成・総彫刻数9121字。

ルーク「いや多いわ!!祝辞ってより古代叙事詩!!」

ティナ「顧問の理性、今にも焼けて干し芋になる予感しますの!!」

そして披露宴が始まると、次々と芋系祝福が押し寄せた。

・芋色ドレスショー(出場者:村人+ゼクス)
・“干し芋で綴る二人の思い出”寸劇(主演:ルーク&ガストン)
・芋婚記念ラップバトル(主催:芋青年団)

クロイ(冷静沈着):「……婚姻とは、かくも熱量の高い儀式だったのか」

リリア「アメリア様……これ、正常な村の婚礼なのですか……?」

アメリア「ええ、むしろ“これでも控えめ”なほうでございますわ」

最後に、アメリアがマイクを手に取り、微笑んだ。

「わたくしは、不器用で真っ直ぐで、言葉より鍬の動きが雄弁な二人の“畝”は、誰よりも深くて、やさしいものだと感じております。これからも、どうぞその手で、互いの隣を、耕してくださいませ」

広場が拍手と干し芋と歓声に包まれたとき、クロイがぽつりと一言。

「……この村でなら、合理ではなく“愛”が、先に芽吹く理由もわかる気がする」

リリアはその言葉を聞いて、そっと笑った。

「わたくしも、ずっとそう思っておりましたの」

そして、二人は揃って畝の上に立ち、“鍬の交差”を交わした。

【芋畝舞台に刻まれた一文】

《耕し合い、寄り添い合い、干し芋のように時を重ねて》

祝賀式から数日。

カレジア村はふたたび日常へと戻っていた——が、その日常にも、わずかに新しい光が射していた。

朝の畝整備中。
リリアは腰に干し芋ポーチをつけ、軽やかに鍬を振るっていた。

「リリアさん、結婚しても相変わらず……」
「いやむしろ、芋力増してない……?」

リリアは小さく微笑んで答える。
「“家庭”という畝もまた、耕しがいのある土地ですの」

クロイ顧問は、村役場の一角で静かに文書を読んでいた。

「……ここの制度文書、統一性はないが、“温かみ”という属性で成立している。不思議だ……」

リリアが差し入れに干し芋ティーを置きながら言った。
「不思議なものですわね。かつての戦略顧問が“おやつ時間”を率先して守っているわ」

アメリアは、ふたりを縁側から見つめていた。

「“新しい畝”に踏み出す姿を見られたこと……それが、わたくしにとっての祝福なのかもしれませんわね」

その夕方。
村の掲示板に一枚の紙が貼り出された。

【リリアさんとクロイ顧問による“村内干し芋婚礼記録集”近日発行!】

・第一章:交際0日目〜布袋文通期
・第五章:芋タキシードと哲学的プロポーズ
・最終章:“交差した鍬”が語るふたりの現在地

村人たちは笑い、頷き、また一歩ずつ畝へと戻っていった。

ふたりの祝福が耕したのは、“一組の愛”だけではなく、村全体の“これから”だったのかもしれない。

リリアはある朝、アメリアのもとを訪れた。

縁側に並んで干し芋を食べるふたり。

「アメリア様……本日は、改まってお時間をいただきたく……」

アメリアは微笑んだ。
「あなたが“前置き”を口にされる時点で、すでにただ事ではないと分かりますわ」

リリアは深く息を吸った。

「わたくし……カレジア村役場を正式に辞し、今後は“村の外務窓口顧問付き随行担当”としてクロイと共に村の入り口に新しい家を設けて活動いたしますの」

アメリアは干し芋をひとくち齧り、静かにうなずいた。
「もちろん、いつでも戻ってこられるよう“この家の鍵”は預けておきますわ」

リリアの瞳がうるんだ。
「アメリア様……十年間、本当に……」

「感謝は干し芋でどうぞ」

リリアは笑い泣きながら、そっと干し芋を差し出した。

「……ありがとうございました」

その日の午後、リリアはクロイと共に村の坂道を下りていった。

アメリアの家のそばに、ゼクスが建てた石碑がひとつ。

【仕えるということは、心を置いていくということ】

アメリアは縁側から、鍬を横に置いたままつぶやいた。

「さあ、わたくしも次の畝を、耕しにまいりましょう」

風が畑を抜け、芋の香りがそっと漂った。
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