運命の恋をした御曹司は、永遠にママと娘を愛し続ける
 コートに帽子、マスクを身につける。季節は春の始まりで、夜風はまだ冷たい。けれど、その冷たさがかえって気配を覆い隠してくれるような気がした。

 お腹をそっとさすると、私はゆっくりと窓を開けた。足音を立てないように、木々が生い茂った庭を進み、少し足をとめて振り返った。そこには祖父母が大切にしてきた家。大切な宝物。涙が零れ落ちるが、今は泣いている場合ではないと乱暴に手で涙をぬぐった。

 息を殺しながら敷地を抜け出し、小さな裏道を通って、私は夜の街へと出ると、ようやく私は大きく息を吐いた。

 その夜、身を潜めたのは、琴音や麻子さんに見つかる可能性の少ない、駅から離れた古びたビジネスホテルの一室だった。内装は簡素で、最低限の家具しかない。それでも、私にとっては久しぶりに自由に呼吸ができた気がした。
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