運命の恋をした御曹司は、永遠にママと娘を愛し続ける
「あのとき、行けなくなったのは、少し生活が変わったからなんです」
 事実だけを淡々と口にしたとき、ソムリエらしき人物が現れ、目の前の磨き上げられたグラスに琥珀色のワインを静かに注いでいく。それと同時に、いくつかの前菜が次々と運ばれてきた。黒の重厚感ある皿に盛られた料理は、どれもきらきらと光を帯びて見え、キャンドルの灯りを受けて一層美しく映えている。

「生活が変わった?」
 曖昧な言い方に、聞いていいのか迷っているような口調に、私は微笑みを浮かべてうなずいた。
「母が他界したんです。あのあと、すぐに」
 せっかくの食事の席で、こんな会話をしてしまった自分に気づき、慌てて顔を上げる。今の〝すぐ〟という言葉など、使う必要はなかった。心の弱さを見せてしまった気がして、とっさに言葉を継ごうとしたが、優希くんは沈痛な面持ちで私を見つめていた。

「それは辛かったな」
 ただそれだけの言葉だったが、私の心には不思議なほどすっと染み込んでいった。そう、辛かった。そして今も辛いことには変わりはない。
< 61 / 328 >

この作品をシェア

pagetop