貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
「あの、バリーに・・・」

ジェシカは緊張のあまり声がうわずったが、頑張って声を張った。

「あの、バリーに、臭いを覚えさせておきたいのですが・・・」

「臭い?」

「ご主人様ってわかるように・・・
なのですが」

「ジェシカ!!それは失礼だろう!!」

ランス所長が大きな声でたしなめたが、ジェシカはバリーの首輪をにぎりしめてお座りの態勢を取らせた。

「しゃがんで、こぶしを握って差し出していただけますか?」

「なるほど・・・これは儀式ですか?」

アレックスは、面白そうに口角を上げた。

「はい、挨拶です」

ジェシカが答えると、アレックスはしゃがみこんで、こぶしを差し出した。

バリーはスンスンと臭いをかぎ、はふはふと尻尾を振った。

「まるで、私が犬の面接を受けているようだな。
取りあえず合格でいいのですか?」

「ありがとうございました・・・」

アレックスが立ち上がると、片膝をついているジェシカの鼻先に高級な香りが漂った。

ハーブか、グリーン?
そして微かに、蘭のエキゾチックな香りも混じる。

知らない世界の香りだ。
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