貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
ドアの側に立つその男性は、サングラスを取り、黒髪をかき上げた。

高級そうなカシミアのコートを脱ぐ、その所作は優雅だ。

端正な顔立ちはギリシア彫刻風で、
口元はやや薄いのが酷薄そうな印象を与える。

ランス所長と同じくらい背もあるし、ボディガードのように鍛えている感が漂う。

瞳は深い青でやや紫がはいるゼニスブルー、鉱物質の輝きはノーブルなオーラを放っていた。

「ああ、仕事が一段落したので休むつもりです。
ここなら邪魔が入らないから。
さて、君が警備責任者ですか?」

ジェシカにアレックスの視線が向いたので、慌てて礼をした。

「ジェシカ・バリントンと言います。こっちはバリーです。バリントンのバリー」

「その・・・こいつらは、あくまで監視カメラ工事が終わるまでのつなぎでして・・・」

ランス所長は額に汗をかいて、いいわけがましく言った。

「別に外回りなら・・・犬でも問題ないだろう」

御当主は寛大のようだ。

「カートリッジ、夕食はいらない。朝食は手配してください」

「わかりました。朝6時に料理人を入れます」

アレックスはうなずくと、身を翻して立ち去ろうとした。

「お待ちください!!」

ジェシカが叫んだ。

「何か・・?」

アレックスが、わずかに不快感を示すかのように額にしわを寄せた。

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