貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
「旦那様がいつ、こちらにいらっしゃるか、わからないですし。
お客様とご一緒の場合もあるので、取りあえず、困らないくらいのものは用意しておくのですよ」

カンは手際よくニンジンの皮をむき終えると、次にセロリをきざんでいく。

「朝食は、何をつくるのですか?」

ジェシカは興味津々で、カンの手元をみつめていた。

「野菜スープとオムレツ。サラダ。ベーコンとソーセージ。チーズは三種類。トーストに・・
おっと、いけない!!」

プシューーー

カンは、吹きこぼれそうになった鍋の火を小さくした。

「野菜を洗いましょうか?」

「ああ、助かります」

カンは、人当たりのよさそうな笑顔を浮かべた。

「最初に、コーヒーをお出ししなければなりませんので」

そう言うと、コーヒーメーカーに豆をセットした。

ジェシカは、豆の袋のラベルを見た。

今の楽しみは、料理の本の写真やレシピを見て、その味や匂いを想像することだ。

「この豆は何ですか?」

「バリスタが、旦那様用に特別ブレンドをしたものです」

ガーーーーガーーー、ゴゴゴゴゴ

豆が挽かれ、香ばしい香りが広がる。
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