貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
なんという・・・上品な甘さと苦味なのだろう。

ジェシカが幸福感に浸っていると

「おはようございます。カンさん。
旦那様がお目覚めです。コーヒーを・・・」

家令のカートリッジが礼装姿で入ってくると、不審そうに眼を細めた。

「おや、バリントンさん、なぜここに?」

「おはようございます・・」

ジェシカは、ニンジンの皮の入ったビニール袋を、素早くジャケットのポケットに押し込んだ。

「バリントンさん!!」

カートリッジの鋭い声が響いた。

「今、何を隠したのですか?!」

疑われているのだ!!
何かを盗んだと・・・ジェシカは身を固くした。

「これを・・・いただいたので・・・」

そっとビニール袋を、配膳台の上に置いた。

「生ゴミが欲しいというので、あげました」

カンもバツが悪そうに、ビニール袋を指さした。

「いけないことでしたか?捨てるものなのですが」

「バリントンさん、それで何をするつもりだったのですか!」

カートリッジの視線は厳しく、疑いを含んでいる。

生ごみで盗んだものを隠して、持ち出そうとしている・・・
それは追求をする視線だ。

胸に・・・冷たい何かが落ちて行くのをジェシカは感じた。

「その・・・これで・・・」
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