貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
クーン、クーン

主人の異変を感じたのか、バリーが裏口で鳴いている。

「野菜スープを・・・作ろうと思いました・・・」

「はぁ?これは生ごみですよ!!」

カートリッジが大声を出すと、ジェシカはビニール袋を逆さまに振って、ニンジンの皮を配膳台に広げた。

「おい、何を騒いでいる?」

アレックスが、ひょいと厨房のドアの隙間から顔を出した。

カートリッジは慌てて、アレックスが入ってくるのを阻止するように手を振った。

「アレックス様、ちょっとした手違いがありまして・・・すぐにコーヒーをお持ちします」

「いや、話をきこうじゃないか」

バスローブ姿でアレックスは、配膳台のそばにあった丸椅子に座った。

「で、それで?」

促すと、腕組みをした。

「私は・・・野菜の切れ端でスープをつくります。
食べ物は大事に、すべて使い切ることが・・・」

自分はきれいごととして、説明をしようとしている。

本当は、何か盗むつもりだったと、疑われるのが悔しいし、悲しい。

ジェシカは頬を赤く染めて、拳を握りしめた。

こんな豪華な食事をする人に・・・理解できないはずだ。

そう思うと、無力感にとらわれた。

< 18 / 77 >

この作品をシェア

pagetop