貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
ジェシカはうつむいて、絞り出すように声を震わせた。

「何も盗んではいませんし、そのつもりもありません。
もし・・・疑うのならば、すぐに解雇していただいてかまいません」

私の人生は、ニンジンの皮で狂う・・・たかがそのくらいのものなのだ。
請求書の封筒と、弟の顔が浮かんだ。

頭を下げると、涙がこぼれ落ちた。
お腹がすくと、悲しみにからめとられ、簡単に感情の壁が崩れ落ちる。

「このヒト、なにも悪い事、していませんよ!仕事を手伝ってくれただけです」

カンが見かねて、声を上げた。

「何か事情があるのか?」

アレックスの言葉に、ジェシカは崩れるように膝をついた。

口に手を押さえて、声がもれるのを必死に我慢をしたが、張り詰めた糸が切れてしまった。

苦しさと緊張と不安が、一気に波のように押し寄せた。

うぐっ・・・ぐっ・・・ひくっ

「泣かないで、これで鼻をかんで」

カンが、そばにあったティッシュペーパーの箱を渡してくれた。

「ここではなんだから、私が居間で話を聞こう。カートリッジ、それでいいな。
コーヒーの準備をしてくれ」

「わかりました。すぐにご用意します」

厳しい顔をしたままカートリッジは、コーヒーカップとソーサーを銀のトレーに準備しはじめた。
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