貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
「その必要はないです」

そう言うと、コーヒーカップをテーブルに置いた。

「君の朝と夜の食事は、こちらで準備しよう。カンには言っておきます」


「えっ・・・いいのですか!?」
ジェシカの赤くなった目に、ぱっと生気が宿った。

お金持ちは寛容だ。

ジェシカは、窓際のソファーに足を組んで座っているアレックスに、後光がさしているように思えた。

これに翼があれば、大天使だ。

「ありがとう・・・ございます」

ジェシカは深々と頭を下げて、速足で居間を後にした。

「よろしいのですか。アレックス様」

カートリッジはカップを片づけながら、声をかけると

「彼女は、はちみつ色の髪だ。
陽にあたると黄金に輝く・・・見ただろう?」

「ああ・・・はい・・・確かにそうですね」

カートリッジは、含みをもたせるように答えると、厨房に戻った。


その朝の食事は、最高だった。

カンは、アレックスに出す食事と同じものを、配膳台に並べてくれたのだ。

暖かいスープ、とろけるようなチーズオムレツ、カリカリのベーコン。

パンもデニッシュ、クロワッサン・フランスパンと種類も多い。

「何という幸せ・・・」

ご飯がちゃんと食べられて、巨大なドッグランがあって・・・
この幸せはすぐ終わると思うと、肩が落ちた。

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