貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
ワン、ワン
ガレージの柱につないでおいたバリーが、吠えている。
ジェシカはナプキンで口をぬぐうと、急いでガレージに走った。
アレックスが新聞を片手に、三つ揃いの高級スーツに身を包み、車に乗り込もうとしていた。
「いってらっしゃいませ」
ジェシカは90度きっちり頭を下げ、バリーはその横でお座りをして尻尾をぶんぶん振っている。
アレックスは軽く片手をあげ、笑った。
「斬新なお見送りだな」
車が見えなくなるのを待って、バリーのリードをはずしてやると、嬉しそうに、噴水の周りをグルグル走り始めた。
「ええと、スケジュールは・・・」
この別邸は昼間に、ハウスキーパーや庭師、監視カメラの設置の業者が入る。
ジェシカの仕事は、出入り業者の身分証明の確認と、ゲートの操作と施錠だ。
ガレージの壁に貼ってある、入館する業者一覧と、時間帯のスケジュール用紙を確認した。
「本館には、絶対犬を入れないように」
これはカートリッジに、厳命された事項だ。