貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
マーガレット・ハウザーという女性
<マーガレット・ハウザーになること>

次の日の朝、ベッド下にいるバリーが低いうなり声をあげたので、ジェシカは目がさめた。

コンコンコン

ノックの音がして、ドア越しに男の声が聞こえる。

「おはようございます。カートリッジです。
身支度ができたら下までお願いします」

ジェシカは、ベッドからあわてて飛び出し、バリーの首輪を押さえた。

「ああ、わかりました。すぐに行きます!」

ジェシカがドア越しに叫ぶと、

「それでは、食堂でお待ちしています」

カートリッジが立ち去ったようで、
バリーは元の場所に戻り、丸くなった。

うーーんと、「マーガレット」という人になるっていう仕事で・・・

クルクルの乱れた頭をかきむしるが、まだ理解が追いついていない。

それに着る物がないし・・・どうしよう。

ジェシカは、だぼだぼで裾がひきずるスエットをつまみ上げた。

これを見たら、カートリッジさんはどう思うだろうか?

ブラシでとかし、後ろで三つ編みにしていると、バリーがじゅうたんをガシガシ掘っている。

「ダメっ!」

カートリッジさんが、また怒るだろうな。

そう思いながら、バリーの首輪をつかんで止めさせた。

ベッド脇の椅子に、チェックのひざ掛けがかかっているのを見つけると、
スエットの上にストールのように巻いて、何とか体裁を整えて食堂に向かった。

「おはようございます。カートリッジさん」

「おはようござい・・・ます・・・」

バリーの姿を見たとたん、カートリッジの額にしわがより、明らかに不服そうだったが、コホンと咳払いをした。

「アレックス様から、お話は伺っています。
朝食を取りながら、本日のスケジュールを説明します」

「あの・・・アレックス様は?」

「もうお出かけになりました」

食堂に入ると料理人のカンがいて、食器の片づけをしていた。
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