貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
「ええ、ちゃんと日焼け止めを塗っておけばよかったのでしょうが、
日光に長時間あたると、湿疹ができてしまって。
医者から外の仕事は、しばらくはダメと言われたんです」

そう言いながら、その時のかゆみを思い出したのか、腕をさすった。

「それで、別の仕事を探そうとしましたが、バリーと一緒にできる仕事がなくて・・・」

ジェシカのフォークの手が止まった。

「バリーは父の犬だったのですが、私にとって、唯一残された父の形見で、家族です。
だから、守らないと・・・」

アレックスが、微かに額にしわをよせた。

「あなたを・・・あなたのことを、守ってくれる人はいなかったのですか?・・・恋人とか?」

ジェシカはその問いに、首を横に振った。

「父と母がいた時は、守られてきたと思います。

でも、両親が突然亡くなり、自分で稼がないと、生きていけなくなりました。
弟の学校もあるし、父から託されたバリーを、手放すわけにはいかないから」

あの時は・・・
ジェシカの指に力が入り、フォークが皿にぶつかり音がした。

借金取りが家に押しかけて、玄関ドアには「立ち入り禁止」のテープがいくつも貼られた。

弟の怯えた顔と、弁護士の冷たい視線。

小さなスーツケースひとつ、バリーと道路の脇で立ちすくんでいた自分。

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