貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
アルバート・ロートリンデンと会う
<アルバート・ロートリンデン>

指示された療養施設とは
大病院に併設された、別棟の高齢者専用の建物。

庭に花壇や樹木が多く植えられ、
品のいい老婦人が、介護人に車いすを押してもらい散歩している。

1階のロビーはホテル仕様で、吹き抜けにはシャンデリア、南全面が窓ガラスになっているので、陽光がよく差し込んで明るい。

ホテルと違うのは、看護師やスタッフが医療器具をカートにのせて、廊下を忙しそうに通り過ぎることだ。

アレックス様は・・・
ジェシカが見回すと、ロビーの隅で車椅子の老婦人と何か話している。

声をかけたほうがいいのかな?

迷っていると、アレックスが先に気がついたらしく、手をあげて合図をした。

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

ジェシカを見た途端、車椅子の老婦人は、幽霊でも見たかのように驚きを見せ、ハンカチで口をおおった。

アレックスが満面の笑みを浮かべて、老婦人の反応を見ている。

「紹介します。彼女はジェシカ・バリントン。
私が今、お付き合いをしている人です。
今日は父にも、紹介するので来てもらいました。
ジェシカ、こちらはロートリンデン夫人」

老婦人は、明らかに不快な表情を浮かべたが、ジェシカを無視するようにすぐに視線をそらした。

ピリピリした緊張の糸が、はりめぐらされている。

私の顔を見て、驚いた表情をしたけれど・・・
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