貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
明らかにマーガレット・ハウザーと似ていると思ったのか。

夫の若き日の愛人、マーガレットと、その成長した息子が並んで立っていると想像したら・・・

何を言えば言いのだろうか、ジェシカは頭を下げた。

「初めまして。ジェシカ・バリントンです・・・」

老婦人はすぐにバックを開けてハンカチをしまい、片手を少し上げて受付の女性に合図をした。

「私は帰ります。お話することは特にないでしょう」

受付の女性がすぐに来て、夫人の車椅子を玄関にむかって押し始めた。

「あの・・?」

「ロートリンデン夫人ですが、彼女が誰かも、父はわからなくなっているのです」

ジェシカは何を言っていいのか、
困ってモジモジしていると、

「まぁ、わからなくなっているのは、息子の私も同じですが」

アレックスは自虐的に、肩をすくめるジェスチャーをした。

「それにしても、今日はずいぶんと地味ですね」

「その、何を着たらいいのか、わからなくて。
でも、これって、就職試験の面接と同じではないですか?」

「確かに・・・そうかもしれません」

アレックスは苦笑して、上階に行くエレベーターボタンを押した。
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