貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
「あなたを見た時の、父の反応が楽しみだ」

「うまくできるでしょうか・・・」

ジェシカがバックの持ち手を、握ったり離したりして動揺しているのを見て、

「黙ったまま、無反応か。
今は痛み止めをつかっているので、
ぼんやりしているかもしれません
何か話をしても、適当に合わせてくれればいいですよ」

エレベーターが最上階についた。

ここのワンフロアが、アルバート・ロートリンデンの居城になっているらしい。

廊下に酸素ボンベや医療器械が置かれ、専従の介護人らしき中年女性が、紙ばさみを手に何か記入をしている。

「こんにちは。父の具合はどうですか?」

アレックスが、その女性に声をかけると、

「まぁ、アレックス様。いましがたまで、奥様がいらっしゃって・・・」

「ええ、夫人とは下で会いましたよ」

アレックスはにこやかに答えた。

「今日は友人を、父に会わせたいと思いまして」

そう言うと、ジェシカに向かって微笑んだ。

さっきは「付き合っている人」で、
ここでは「友人」なのか。
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