貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
「こんにちは。ジェシカ・バリントンです」

「ロートリンデン様が、お喜びになるといいですね。サンルームにご案内を・・」


「いえ、大丈夫です。わかっていますから。ありがとうございます」

アレックスが先に歩き出し、ジェシカがその後をついていく。

サンルームというより、展望台といったほうが適切だろう、広い大空間が突き当りにあった。

階下にビル群が立ち並び、遠くに山並みが蜃気楼のようにかすんで見える。

車椅子の老人が一人、こちらに背を向けて、その景色をながめていた。

すぐ脇には設置されたボックス型の機械があり、いくつものチューブが老人の体とつながっている。

「こんにちは。ご機嫌はいかがですか?」

アレックスがひざをついて、老人の顔をのぞき込むように声をかけた。

白髪の老人は目を閉じていたが、
ゆっくりと開いた。

「お前は誰だ?・・・さっさと出て行け!」

その声は思いもよらず、力強い。

「今日は、大切な人をつれてきたのですよ。紹介をします。
ジェシカ、ここへ」

ジェシカもアレックスの隣で、ひざまずいてアルバート・ロードリンデンと視線を合わせた。

この人の瞳もゼニスブルー、アレックスと同じだ。

彼の視線はゆっくりだが、ジェシカに焦点が合うと、まぶしそうに目を細めて額に手をやった。
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