貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
バリーと一緒に甘やかされたい
<バリーと一緒>

次の日の夕方、居間でジェシカと一緒にいたバリーが、ピクリと耳を動かした。

ダシタシタシ・・・

バリーが玄関に向かって歩いていく。

ジェシカもついていくと、玄関ドアの前でお座りをして、尻尾をブンブン振って誰かを待っている。

ガチャ、ガチャ

鍵を開ける音がして、ドアが開いた。

「おかえりなさいませ」

二人と一匹のお出迎えに、アレックスは少し驚き、感心もしたようだ。

「ただいま。連絡をしていないのによくわかりましたね」

アレックスは身を屈めて、バリーの首回りをわしわしなでている。

「今日は、カートリッジさんから、連絡が何もありませんでしたけれど・・・」

ジェシカが言うと、
アレックスは、そばの椅子にカバンを置いた。

「来る予定ではなかったのですが、途中で気が変わりました。
お土産のジャーキーを買ってきたので・・・」

バリーがすでに匂いを探知して、かばんの底に鼻をつけて尻尾を振っている。

「じゃ、カンさんに朝食の連絡を入れておきます。あと、カートリッジさんにも・・・」

「連絡をしなくていいです。食事は適当にするし、カートリッジはうるさいしな」

アレックスは前髪をかき上げ、面倒くさそうに、本音を吐いた。

「私は犬を飼ったことがないけれど、こうしてみると、かわいいな」

バリーは、おやつをくれる人認定で、アレックスの足に身を寄せて、ごろんと腹をみせ身をくねらせている。

「美味しいものをくれる人に、すぐになついてしまうんです」

アレックスは、かばんからジャーキーの袋を取り出して、ジェシカの目の前で振った。

「君もそうですか?」

この人はいじわるだ。

「私は、食べ物でつられません」
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