貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
ジェシカは、犬ぞりの写真のページを示した。

「「アレックスは犬ぞりがとても好き・・・」と話されましたから、家族旅行ではないですか?」

アレックスのグラスを持つ手が止まり・・・驚きの表情を浮かべた。

「そんな記憶、私にはないのですが・・・父が・・・私の名前を言ったのですか!!」

「ええ、きっと、ちっちゃくて覚えていないのかもしれませんが、アルバート様と一緒に乗ったのでしょうね」

小さなアレックスが大はしゃぎで、
アルバートに抱かれて、そりに乗っている姿を、ジェシカは思い浮かべた。

「そうですか・・・」

アレックスは頭を垂れ、考え込んでいる。

「私は・・・父は私の事など、関心がないと思っていました」

ジェシカはその落ち込みに、やるせない気持ちになったが、

「今は・・・アルバート様は・・・ご自身が若くて、幸福だった時代にいるのではないでしょうか」

「そうですね。そうかもしれません。マーガレットと一緒だった時の・・・」

自分に言い聞かすように言ったが、アレックスは頭を垂れたまま、動かなかった。

「今日はこれでいいです。ありがとう」

ジェシカがドアを閉める時、アレックスが同じ姿勢のままで、暖炉の火に照らされているのが見えた。
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