貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
「バリーはとっても賢くて、いい子なのを見てもらいたいです。
明日の午後にやる予定ですけれど、
アレックス様も、一緒にご覧になりませんか?」

アレックスがバリーの頭をなでた。

「それは、なかなか楽しそうですね」

「明日、お天気だといいけれど、
でも・・・心配な事もあるんです」

ジェシカはチョコレートを口に入れて、コーヒーの苦味と、チョコレートのマリアージュで不安をまぎらわせようとした。

「観客がいると、私が緊張をしてしまって。
バリーに指示がうまく伝わらなくて、失敗した経験があるので・・・」

アレックスがうなずいた。

「緊張すると、実力が出せないとか、頭が真っ白になってしまうとか・・・ですね」

「そうなんです。特に検定試験とか、コンクールでやらかしてしまうので」

ジェシカは首を横に振り、ため息をついた。

「でも、今から悩んでもしょうがないですよね」

ジェシカは努めて明るい声を出し、アレックスにぴったり張り付いているバリーの首輪に手をかけた。

「さぁ、バリー、戻ろう」

バリーは、ジャーキーをもらうのを待っているので、動かない。

すっかりアレックスのペットになって、甘ったれ犬になってしまった。

「まったくぅ・・・」
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