貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
ジェシカは、アレックスの足元で寝そべっているバリーを引き起こそうと、身を屈めた時・・・

アレックスがその手をつかんで、自分の体のほうに引き寄せた。

トスッ・・・

ジェシカは尻もちをつくように、
アレックスの膝の上に座ってしまった。

そのまま、バックハグの態勢に持ち込まれたので、ジェシカは焦ってどうしたらいいかわからない。

「あの、あの・・?」

背中にアレックスの体が密着して、
その腕はお腹にしっかりまわされ固定されてしまった。

「緊張を・・・緩める方法を教えますよ」

ジェシカの耳元で、催眠術師のように低い声が響く。

「力を抜いて・・・もっと体を預けてください」

アレックスの体温と息遣い、そしてハーブとグリーンの香りが鼻先をかすめる。

「炎を見て・・・ゆっくり呼吸をしてみてください」

炎は様々に形を変えて、風に揺れる木漏れ日を思い出す。

「薔薇の香りがする・・・」

アレックスが耳元でささやいた時、
ジェシカの頭の中で、「犬臭い」というワードに変換され、我に返った。

「あのっ!!もう、大丈夫ですっ!!失礼しましたっ!!」
< 63 / 77 >

この作品をシェア

pagetop