貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
バリーは地面をさぐるように嗅ぎながら、迷いなく大木めがけていく。

ワンワン、ワォン

そのまま上を向いて吠え続けると、
職員の男性は茂った葉から顔をのぞかせて、手を振って観客たちにアピールをした。
木の後ろから、梯子を持った職員も手を振った。

「これはすごい！！あっという間でしたね！！」

観客たちが笑顔で、精いっぱい拍手を送る中、ジェシカが深く頭を下げ、
バリーはお座りでブンブンと尻尾を振って答えた。

「それでは、ショーはおしまいです。皆さま、楽しんでいただけたでしょうか？」

アルバート・ロートリンデンは、見てくれているだろうか。

ジェシカはアレックスの方を見ると、笑顔でOKサインを指でつくった。

ショーが終わり、片づけをしていると、アレックスが中庭に降りてきた。

「お疲れさまです。皆さんに喜んでいただけましたね」

「アルバート様は、どうでしたか？」

ジェシカが心配げに聞くと

「ええ、目でバリーを追っていたと思います。
手も少し動かして、拍手をしようとしたのかな」

「そうですか。よかったです。
バリーも頑張ったね」

ジェシカは、ポケットからスマホを取り出した。

「バリーと写真をとりましょう。
すいませーーん、ちょっとお願いします」

そう声をかけると、通りすがりの職員を呼び止めた。

「３人で一緒にとりましょう？
記念ですから」

ジェシカはアレックスの隣に立ち、真ん中にバリーがお座りをした。

「お願いします」

カシャッ
ジェシカがスマホを職員から受け取ると、満面の笑みを浮かべた。

「これを病室の壁に、貼っておけるようにしますね」

かたや、アレックスは、どのような表情をしたらいいかわからないようで、微苦笑めいた顔をつくった。

これも楽しい想い出になる。
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