貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
最後の時間
<最後の時間

人は亡くなる前に、ろうそくの炎が、明るさを増すような時間が、一瞬、訪れる。

アルバートは、ほとんど寝たきりの状態で、言葉は出ないが、ジェシカを見るとうれしそうな表情をするようになっていた。

病室の壁の写真も、随分と増えた。

アラスカのオーロラや、犬ぞりの写真。

もちろん、バリーとアレックス、
ジェシカが一緒に撮った写真も貼ってある。

バリーを、連れてくる事ができるといいな・・・

中庭で一緒に散歩ができたら、アルバート様も喜んでくれるかもしれない。

ベッドサイドのテーブルに置いてあった、ある新聞記事に、ジェシカの目が留まった。

セラピードックの特集記事。

セラピードックとは、病院や高齢者施設に訪問をして、患者さんや入居者の相手をする犬のこと。

リハビリや入院生活に寄り添い、
身体機能や心の安定に役立つことができる。

これなら、バリーと一緒にできるかもしれない。

新しい世界が開けたようで、胸が躍った。

ジェシカは、その新聞記事の切り抜きを、急いでバックに入れると

「アルバート様、明日、また来ますね」

声をかけると、眠っているようで、
目を閉じていたが、手に触れると温かい。

ジェシカはその温かさに安心して、
そっと布団をかけた。

施設から戻り、食堂で夕食のサンドイッチをほおばっている時だった。

スマホが鳴り、発信者を見るとカートリッジさんからだ。

「アルバート様が危篤状態です!
アレックス様が病院に向かっています」

「わかりました!!私もすぐに行きます!」

ジェシカは車のキーをつかむと、ガレージに走っていった。

病院に着くと、職員が玄関先で立っている。

「あのっ、アルバート・ロードリンデン様は・・・?」
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