貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
「面会時間が過ぎているので、こちらからお入りください」

職員が先導して、病院の裏口から、奥の個室に案内された。

引き戸を開けると、すぐ前に衝立があったので、ジェシカがためらいながらも顔を覗かすと

アレックスがベッドのヘッドボード脇に立ち、腕組みをして首を振った。

酸素マスクをつけ、たくさんのチューブにつながれたアルバートが、目を閉じている。

ポコポコポコ・・・ピッ・・・ピッ

酸素発生ボトルの泡の音と電子音が、静かな空間に響く。

「血圧が下がり、呼吸の回数が少なくなっています」

アレックスの説明に、ジェシカはベッドサイドに取り付けられているモニター画面を見た。

少しずつだが、数値が低くなっている。

この人は・・・もうすぐ逝くのだ。

そうしたら、あの暗い霊安室に運ばれて・・・

冷たい闇に突き落とされるよう感覚が貫いた時、ふと口から声が漏れた。

「ア・・アルバート・・・
私よ・・・アルバート、私はここにいるの」

ジェシカがベッド脇でしゃがみ、
アルバートの手に自分の手を重ね握った。

自分の意志とは関係なく、
声が・・・言葉がでてしまう。
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