貧困乙女、愛人なりすましのお仕事を依頼されましたが・・・
仕事の終わりとはじまり

ゴーン、ゴーン
墓苑の鐘が、四方に鳴り響く。

カートリッジさんは葬儀業者と話をしているし、アレックスは多くの弔問客の対応で忙しそうだ。

ジェシカはバリーと共に、少し離れた場所で、葬儀が進んでいくのを見ていた。

棺の中に、病室に飾ってあった写真を入れてくれるといいな、そう思ったが、伝えるすべもない。

この仕事は、アルバート・ロートリンデンの死とともに終わったのだ。

風が出て、周辺に飾られた黒いリボンがたなびき始めた時、
弔問客が急ぎ足で、駐車場に向かって歩いて行くのが見えた。

誰もいなくなったら、最後のお別れをしよう。

ジェシカはバリーにリードをつけ、周りに注意を払いながら、花で飾られた新墓に近寄った。

墓前でひざまずき、手を合わせて祈りをささげた。

「アルバート様。安らかにお眠りください。
短い期間でしたけど、お会いできてよかったです・・・」

ウォン

バリーが反応したので、ジェシカが振り向くと、アレックスがこちらに向かって速足で歩いてくる。

ジェシカは立ち上がり、頭を下げた。

「ジェシカ、出て行くと聞いたから・・・」

ジェシカは風になびく髪を押さえた。
風が強くなっている。

「はい、次のお仕事が決まりましたので。
介助犬を訓練する施設の仕事を、紹介してもらいました」

そう言うと、バックからクレジットカードを取り出した。
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