「帰りたくないんだろ」~好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!~
 俺様な男だ。

 だが、あのときの、「お、おう……」としどろもどろで頬を人差し指で掻く姿はどう考えてもユーモラスそのもの。

 人間らしい姿だった。

 どうせ頬なんかかゆくもないに決まっている。

 榎原紘花は、蒔田のアシスタントの仕事を始めて、三ヶ月が経つ。

(あれ、そういえば……)

 なんでも言いつけてくださいね、とは言った。
 言ったものの、会議室予約などの雑務は、結局、ほとんど蒔田が従前どおり自分で行っていた。が。

 今日は、やけに頼まれたではないか。

 会議室予約ごとき雑務二つまでも。なんでも自力でやりたがる蒔田にしては珍しいことだ。(だからこそ周りに割り振るよう強制的にアシスタントをつけられたというわけだが)

 どういう風の吹き回しだろう。

 やや疑問を感じつつも、彼女は、コーヒーを飲み、残りの作業に専念し、一時間弱で終わらせた。

「お先に失礼します」
「お疲れ」

 フロアに残っているのは、蒔田一人。

「……蒔田さん。手伝えることあったら、ほんとに、なんでも、言ってくださいね」
「分かってる。気をつけて帰れよ」
「……子どもじゃないんですから」
「女の子なんだから、心配だろ」
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