好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!
 さきほどの吉報を聞かされた喜ばしい気分と、少々の苦い思いがこみあげる。人間の感情とは常に複雑だ。
 彼女は胸を押さえながらも答えた。「……そのときは、こんにちわ程度の挨拶しかしませんでした」
「じゃあ、初めてだったんだな……」蒔田が顎を摘まみ、考える仕草をする。
「あの。どうしたんですか蒔田さん」と彼女が首を傾げる。「うちの父がなにか?」

「いいや。ううん……」

 なにやら唸っていた蒔田は、結局こう言った。

「彼の気持ちは、彼にしか分からない」

「なに言ってんですか。あったりまえじゃないですか」と彼女は笑った。「それだったら蒔田さんのこと、もっと聞かせてくださいよ」彼女は、蒔田のグラスにビールを注いだ。「どんな学生時代を過ごされたんです? あ。そうだ。高校生のときどんなだったか、聞きたいです」
「あまり面白くもないし、暗い話だが、それでも聞きたいか」
「はい、聞きたいです」彼女は、両手を組んで祈るようなポーズで答えた。


「幾つかの、貴重な出会いがあった」


 蒔田が目を伏せる。過去を慈しむように。

 過去を愛おしむように。
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