好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!

act31. 忘れてください、あたしのこと

 自分の存在が誰かを傷つけていると感じたことはあるだろうか。

 
 相手への好意は純粋そのもので行動が無自覚。であればあるほど、事態は深刻だ。
 

 彼女は、ようやくしてそのことに思い至った。例えば彼女は。


 生後数ヶ月で母親に捨てられている。


 赤子は母親を求めて泣く。養育者を求めていた。お腹がすいた、おむつを替えてと。その存在こそが、実の母親をおそらく傷めつけていた。

 捨てられた経緯を、誰も詳しく話してくれたことはない。

 誰も知らない。

 推測の範囲でも聞いたことがない。だがおそらくそういうことなのだろう。

 
 母は、自ら離れていった。


 育てることが苦しすぎるあまり。


 子を、捨てた。


 彼女に母の記憶は無い。『母親』というものを想像でしか知らない。だから彼女は、自分が世の中に不必要だと感じたときに。

 自分が『要らない』存在だと感じた思春期の頃に、誰にも相談せず、黙って耐え忍んだ。

 母親のいる子どもならばそっと母親に抱きしめられた場面でも。
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