「帰りたくないんだろ」~好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!~
 彼は、がらっと戸を開け、暖簾をかいくぐり、外の世界に飛び込んでから言った。

「なんの用だ。こないだ話したばかりだろうが」

 ぞんざいな物言い。

 しかし、声色に喜びを隠しきれていなかった。

 会社じゃあ、鉄仮面と言われている上司が。

 笑いそうになるのを堪え、彼女も戸を開き、外に出た。蒔田の視線。わざと見えるようにシガレットケースから煙草を取り出し、ライターに火を点ける。百円ライターというのが、我ながら様にならないと思うけども。

「うん。ああ。大丈夫だ。和貴は元気にしてるか? そうか。うん。おまえは? 飯は? 食ったのか」親みたいな口調だ。そんな彼は、彼女から新橋界隈を歩くサラリーマンに目を移す。「構わん。時間は気にするな。なんだ? ――」

 含み笑いさえ浮かべていた蒔田の表情が、

 すっと失われる。

 そして、そのかたちのいい唇が動いた。「そうか。おめでとう。で、日取りは」

 彼女は、動揺した。

 電話の相手は、てっきり、遠くに住む彼女か親しい友人かと思っていた。でも違った。


 友達の彼女だ。

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