「帰りたくないんだろ」~好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!~

act4. 告白

「すいません、ちょっと席外します」

 と、断りを入れて席を立つ。

 周囲の面々は飲酒と会話に夢中になっていて、彼の言葉なんか聞いちゃいない。

 彼女を除けば。

「あたし、お手洗いに行ってきます」
「榎原さんてば、どうせタバコっしょ?」

 後輩の道林は、榎原が喫煙者であることを知っている。

 かっこいいと思ったから。

 煙草を吸おうと思ったきっかけはそんなだ。

 この業界は男女問わず喫煙者が多い。ストレスが溜まるからだ、と彼女は思っている。

 抜け目なく突っ込んだ道林には、しぃっと人差し指を立てて微笑みかけてから、席を離れる。

 追いかけてしまうのだ。

 彼の背中には、それだけの吸引力がある。

「もしもし。ああ。会社の飲み会だ。あ? 平気だ、すこし席を外すくらい問題ない。みな酔っているからな。ちょっと待て、ここはすこしうるさい」

 彼女は足元を見た。一昨日買ったばかりのハイヒールが誰かに蹴っ飛ばされた様子。酔っぱらいの愚行に軽く眉を潜め、聴覚を彼の会話に集中させる。

 狭い廊下を颯爽と歩く彼の背中が小さくなる前に、彼女は、ハイヒールを履く。
< 24 / 36 >

この作品をシェア

pagetop