好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!
 蒔田一臣は、直接告白されたことが少なく(下駄箱に手紙が入っていたことや、「これ、読んでください!」と手渡されて逃げられたことなら数えきれぬほどあるが)、ああいう場合には自分の意志をどう伝えるべきなのか、いまひとつ分からない。

 相手を傷つけることを恐れているのではない。それは彼の恐れの要因ではない。

 だいたい、『あたしのことを部下としてでなくひとりの人間として、見てください』と言ってきた相手に、『部下としてしか見れない』と返すだなんて、おうむ返し以下だ。袋小路だ。

「……呆れてものが言えんな」それでも手と口は自然と動くのだから人間というものは器用だ。彼女もいまごろ別のことをしているだろう。

 コーヒー豆のかぐわしい香りが鼻腔をくすぐる。

 一見大きめの漏斗のようなプラスチック製のコーヒーフィルターに専用のフィルターペーパーをセットし、挽いた豆を入れる。豆は、挽く前に計量するのが彼の主義だ。とんとん、とコーヒーフィルターをカウンターに打ちつけて、隆起していたコーヒーの粉を平らにならす。


 それにしても、彼女は自分のどこに惚れたのだろう、と思う。

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