好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!
 蒔田一臣は自分のことがあまり好きではない。なお、思春期の自己を嫌悪する時分は卒業している。

 ときどき無性に、自分のキャラが面倒臭くなるのだ。それは例えば。

 いつまでもうじうじと一人の女性を思い続けるしつこさや。

 母親の自分に対する処遇を『仕方がない』と割り切れぬ女々しさなど。

 ときどき、なにも考えず、ぱぁっと鳥のように飛び立ちたい、と彼は思う。人間は勝手だ。鳥はもっと考えている。

 明日食うものや自由のことなど。

 煩わしい雑務から、強面でとっつきにくい自分から開放されたらいったいどんな気分だろう。

 煩わしくても生涯つき合い続けるのが、自分のことだ。もう諦めるしかない。

「そういえば」

 彼女と初めて出会ったとき、彼女は、裸足で階段を駆けあがっていた。正確には、素足ではなくストッキングを履いた足で。エレベーターが来ないから遅刻しそうだと焦って階段をあがっていたらしいが、それにしても靴を脱ぐとは大胆だ。誰に見つかるとも知れないのに。

 実際、見つかった。

 挙句、遅刻したのだ、新人研修を終え、第三事業部に配属となった初日に。
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