好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!
 これ以上近づいてはいけないと。

 これ以上深追いをしてはならないと。

 そのさきは未開の森だ。

 かつて自分が立ち入ったことのある、出口の見えない奥深き世界。自分を憎んでも他人を想っても得られない結論。

 そして不快感。自己嫌悪。憐憫。同情。

 蒔田一臣は、煙草の火を消した。ちっとも美味しく感じられない。頭を冷やす必要がある。

 気分転換にとコーヒーをと思ったはずが、結局彼女のことしか考えていない……。

 せっかくの休日もこんな風に過ぎていく。休日出勤をしたあとの貴重な夕刻のとき。若干空腹を感じるがそんな気分になれない。

 チャーハンを作る気分なんて、もっとだ。

「あー、だりー……」

 コーヒーフィルターにお湯を注ぐ気分になれず、ソファーに横になる。一人暮らしなのに何故二人がけのソファーを買ったのか。

『ね。かっこいいよねこのソファー』
『そうか?』
『マキのイメージっぽい。こういう革張りの黒……』 

 彼は舌打ちをした。

「くそ」

 自分が都倉真咲を忘れられぬように。


 彼女も、自分を断ち切れぬのだ。それも毎日顔を合わせる上司という。

「明日っからどう冷たく接すりゃあいいんだ……」


 弱々しき声が煙残るキッチンの天井に届き、そして消えていった。

 *
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