好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!

act9. 赤子

 どうして、その可能性に思い至らなかったのだろう。

 と彼女は思う。

 それを目撃したときに。

 蒔田は指輪をしていない。未婚のはずだ。だが彼女がいるともいないとも聞いていないし、あの無垢な赤ちゃんが。

 あんなに、目を細めて嬉しそうに抱く子が、自分の子じゃないなんて。

 母親である女性は親しげに彼の背中に手を添えている。

 仲睦まじき、家族三人の一幕。

 それを目撃したとき、彼女は自分の足が棒になったように、動けなかった。

 * * *

「お先に」
「……お疲れさまです」

 蒔田が自分より先に帰るなんて珍しい。彼女はタイピングする手を止め、小さく会釈した。

(なんとなくそわそわしてた……)

 仕事大好きな上司にも、早く帰りたい日があるのか。

(まあ当たり前か)

 人間だもの。
 
 彼女は、手早く入力を終え、あがることとした。近頃は定時帰りが続いている。残業時間は月に十時間程度。蒔田の十分の一だ。

(帰ったら肉じゃがでも作ろっかな……)
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