好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!
 すこし酒臭い息。

「……どいて。くれる、かな」……語尾が弱々しい。

 どうしてこんなにも自分は強気で弱気なのだ。

 どいて、くれる?

 二言目が喉元から出かかった頃、別の声が聞こえた。


「邪魔だ」


 桐沢遼一は背が高いとはいえ、身長が160センチを超える彼女と十センチほどしか変わらない。

 彼女にかかる影が濃くなる。

 一人の存在に、よって。

「蒔田さん……」彼女は、救われた気持ちがした。

「そんなとこでくっちゃべってられると他の客の邪魔だ。喋るなら他のところにしろ」

「はい、はい」す、と桐沢は身を引く。蒔田の表情が見える。なんだか、表情が険しいのは気のせいか。「じゃあおれ先戻っとく」
「ああ」桐沢は紘花に言ったと思われるが、蒔田が答える。

 今度は、蒔田と彼女が向き合うかたちとなる。

「……蒔田さん。使いま、す……?」彼女は後ろを指してみた。
「いいや」と蒔田が答える。


「いつまでも戻ってこないやつを探してきてみればそんな顔をしているから邪魔したまでだ」


 ……、

 その台詞に、彼女はたまらず胸を押さえた。
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