治療不可能な恋をした
拓馬の声に、ほんの少し肩の力が抜けた気がした。
そして、病室の並ぶ廊下の角を曲がったときだった。
「──あ」
向こうからちょうど理人が歩いてきて、ばっちりと目が合った。
一瞬、梨乃の足が止まりかけた。けれどすぐに視線を逸らし、小さく会釈だけして通り過ぎる。
理人もまた、それ以上は何も言わず、静かにすれ違った。
その背中を視界の端で感じながら歩くと、横から拓馬がぽつりとつぶやいた。
「りのせんせーどうしたの?かおあかいよ?」
「!……そ、そう?」
梨乃は笑って誤魔化したが、胸の奥がざわりと音を立てた。
──こんなふうに、子どもにまで気づかれるくらい、乱されてる。
自分でも分かっていた。もう、仕事にも支障が出るくらい、理人に恋をしている。
でも、それがこわかった。こんな気持ちを持ち続けていたら、いつか壊れてしまいそうで。
この気持ちをどうしたらいいのか、扱う術がわからない。
こんな不器用な自分に、恋愛なんてできるんだろうか。できたとして、それが続くのか。壊すだけじゃないのか──。
彼に、好きだと言われた。
でも、自分がそれを受け入れていい存在だと、どうしても思えなかった。