治療不可能な恋をした
退勤後。
着替えを済ませ、バッグを肩にかけて裏口へと向かう足取りはいつもよりわずかに速かった。
早く帰りたいというより、これ以上、誰かと顔を合わせたくなかった。
けれど、出入口の前に立つ背の高い人影が、その足を止めさせた。
「──仁科、ちょっといいか?」
低い声に、梨乃の心臓が跳ねた。
理人が、手をポケットに入れたままこちらを見ていた。表情はいつもと同じはずなのに、どこか痛々しいほど真っ直ぐだった。
「……今、急いでるから」
「じゃあ手短に言う。なんで避けてんだよ」
ぐっと喉が詰まる。言い返す前に、理人が歩み寄ってきた。
「さ、避けてなんか……」
「避けてるだろ。目も合わせない、話もしない。あの術後経過も、わざわざ白石先生に渡してたろ」
「……職場で私情を出すのはよくないって思っただけで」
「今の方がよっぽど感情的だって、わかってるか?」
声を荒げているわけではない。けれど、ひとつひとつの言葉が鋭くて、胸の奥に突き刺さる。
梨乃は思わず視線を逸らした。