治療不可能な恋をした
「……そうなんですか」
目を合わせないまま、かろうじて言葉を返す。
それを見て、白石は楽しげに目を細めた。
「仁科先生。逢坂先生と、なにかあったでしょ?」
「……えっ」
思わず顔を上げた梨乃に、白石はくすっと笑った。
「そんな驚かなくても。見ればわかりますよ〜」
「……なに、が」
「最近、逢坂先生が関わりそうな仕事、さりげなく避けてません?」
「………」
「さっきのTGAの件もそうだけど、前だったらもっとしっかり関わろうとしてたと思うんですよね。なのに最近はなんとなく距離を置いてる感じがして」
梨乃は思わずまばたきをし、視線をそらすように手元の資料に目を落とした。
「こうやって話題に出すと、ちょっと空気変わるんですよ。今も、なんとなく間がありましたし」
「……」
「逢坂先生のことになると、顔、ちょっと引き攣ってますよ?」
そう言いながら、白石は自分の頬を人差し指で軽くつついてみせた。ふざけすぎない絶妙な調子で、それでもどこか探るような視線を梨乃に向けてくる。
梨乃がわずかに息を詰めたのを見て、白石はくすりと笑い、肩をすくめた。
「でも、それをいうと逢坂先生のほうが、もっとわかりやすいかなあ」
「……え?」
「逢坂先生って、仁科先生のこと好きですよね?」
──その言葉を聞いた瞬間、肩がぴくりと震えた。
「……え…、なん、で…」
呼吸が一瞬止まり、顔が熱くなる。心臓の音が急に大きくなって、動揺が体中を駆け巡った。