治療不可能な恋をした
刹那、ナースコールのけたたましい音が静かなスタッフルームの空気を裂いた。
「……仁科先生!」
駆け込んできた看護師の緊迫した声に、梨乃ははっと顔を上げた。
「拓馬くん、意識レベル急変しました!サチュレーション低下してます!」
言葉より先に体が動いた。梨乃は白石との会話を遮るように立ち上がり、勢いよく廊下へ駆け出した。
モニターアラームが鳴り響く病室。拓馬の小さな身体が痙攣し、呼吸が浅く乱れている。看護師たちが既に酸素投与とバイタルのチェックを始めていた。
「血圧は?」
「70台まで落ちてます!意識レベルJCS200!」
「心電図確認。呼吸器準備して、今すぐPICUへ!」
「はい!」
慌ただしく準備が進む中、廊下の奥から走ってくる足音が響く。
「仁科!」
理人だった。
息を切らしながらも、真っ直ぐにベッドサイドへ入ってくる。
「こっちにも連絡きた。TGAの子か、何があった?」
「サチュレーション急落。意識消失。ショックバイタルです」
「なら搬送中にCPAP維持。挿管準備。すぐ押すぞ、いいな?」
「わかってます!」
視線が一瞬交わる。
梨乃の声に迷いはなかった。理人の指示を一手一手先読みし、言葉を待たずに体が動く。
二人の間に余計なやり取りはない。今はただ、目の前の命を救うことだけがすべてだった。