治療不可能な恋をした

その言葉は低く、けれどどこまでも真っ直ぐだった。

「本当はずっと、そう望んでたんだ。お前とのあの夜を“なかったこと”なんかにしたくなかった。でも……言えなかった。お前に逃げられたって思い込んで、それ以上傷つくのが怖くて、向かい合うことを遠ざけてた」

梨乃の視界が、じんわりと滲んだ。

「今は違う。あの頃よりもっと、仁科が好きだ。気持ちも伝えて、お前も向き合ってくれた。……だから」

理人がそっと、梨乃の手に触れた。

「今度は、“確かなもの”として、ちゃんと始めたい。……つまり、その……恋人として」

その手のぬくもりに、梨乃は静かに頷いた。

「……うん。ありがとう……」

ふたりの間に沈黙が落ちる。けれどそれは、決して重くなかった。

目と目が合い、頬がわずかに赤く染まって、呼吸がほんの少しだけ近づく。

ごく自然な流れのなかで、ふたりの唇がそっと重なった。

それは過去に戻るためのものじゃない。今この瞬間から始めるための、確かなキスだった。
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