治療不可能な恋をした

真顔で、甘い声で、至近距離で、そんな事を言う。

その破壊力に、梨乃の全身が一瞬で熱を帯びた。

「……やっ、やめてよ、誰かに見られる……っ」

ようやく絞り出した声に、理人は肩をすくめてみせながらも、まるで悪びれた様子はない。

「別に見られたっていいじゃん。むしろ、見せつけたいくらいなんだけど」

「私は恥ずかしい!」

「梨乃がそう言うから我慢してるけどさ。……これでも一応、抑えてるつもりなんだよ」

「が、我慢……?」

「ん。ちゃんと職場モード、意識してるだろ?」

相変わらず近いまま、さらりと返してくる。

(……え、どのへんが…?)

思わず心の中でツッコミが走る。

隙あらば距離を詰めてくるし、今だって誰が見てるかも分からないのに耳元で囁いてくる。それで“我慢してる”なんて言われても、どのあたりが?としか思えない。

その疑問が、表情に出てしまっていたのかもしれない。

「梨乃は嫌?浮かれてるのは俺だけ?」

「!そ、ういうわけじゃ……」

返した声がやけに弱くなる。

(違う、嫌なんかじゃない。ただ……)

胸の内で言い訳するように言葉を探しながら、視線だけで彼を見上げた。

「その、もうちょっと控えめに……こう……せめて、もう少し周囲を気にしてというか……」

「無理」

即答だった。まるで息をするように当然の顔で。
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