治療不可能な恋をした
「だって目の前に梨乃がいるのに、何もせずスルーとか、普通にできないし」
理人の視線が、まるで愛おしさをなぞるように梨乃の顔を捉えて離さない。
「ほんと、職場だろうがなんだろうが、梨乃を見かけるたびに好きが更新されるんだよね」
その言葉に、心臓がまた跳ねる。
(なに、それ……)
胸の奥が、きゅうっと熱くなる。顔の火照りを隠すように視線を落としながらも、頭の中では彼の言葉を何度も反芻してしまう。
そして──
理人がふっと微笑を浮かべ、手をそっと広げる。
「……で、今日はまだ"充電"させてくれないの?」
その一言に、梨乃の思考が真っ白になる。
(じゅ、充電って……)
意味を察した瞬間、頬が一気に熱くなった。言葉が出ない。声を出そうにも、喉がぎゅっと詰まって動けない。
そんな梨乃の反応を見て、理人の口元が、ふわりとやさしくほころぶ。
「なあ、ちょっとだけ。30秒だけでいいから」
言うが早いか梨乃の手を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめてきた。
「──っ……!」
驚いて声を上げる間もなく、彼の腕の中にすっぽりと収まる。温かくて、心地よくて、だけど悔しいくらいに落ち着くその距離。
(誰かに見られるかもしれないのに……)
そう思っても、腕の中から離れられない。むしろ理人の鼓動に耳を澄ませるように、そっと目を閉じてしまう。
──30秒、なんてとっくに過ぎていた。
けれどしばらくして理人はゆっくりと腕の力をほどき、名残惜しそうに梨乃の額に額を寄せた。