治療不可能な恋をした
「……あー、癒される……オペ記録とサマリーの山でくたばりそうだったけど、もうちょっとだけ頑張れる気がしてきた。ありがとな、梨乃」
そう囁かれるだけで、また心臓が跳ねる。
「う、うん……」
なんとか返した声は、かすれて頼りなかった。
「なあ。たまにさ、こうさせてよ」
お願いというより、もうほぼ宣言のようなその言葉に、梨乃は唇を引き結んで、しばらく黙り込んだ。
(……絶対、“たまに”じゃ済まない)
それでも──
「……本当に、たまになら……」
ぽつりと返すと、理人の目がふっと嬉しそうに細まった。
「約束だからな」
指切りでも求めそうな顔で笑う彼に、梨乃はぷいと顔を背ける。
「っ……もう、帰る」
そう言って再び出口へ向かおうとしたとき──
「梨乃」
呼び止められて振り向くと、理人が一歩近づき、梨乃の頬にそっと唇を寄せた。
「……また明日。楽しみにしてる」
柔らかなキスと共に告げられたその言葉に、梨乃は一瞬で固まった。
明日は、理人と初めてのデートの約束をしている。
それを思い出し、胸の奥が甘くざわめく。
(どうしよう……今夜、ちゃんと寝れるかな)
梨乃は耳まで真っ赤に染めながらも、無言で小さく頷いてくるりと背を向けた。
背後からは、理人の笑い声が追いかけてくる。
(私ばっかり振り回されて、くやしい)
そう思いながらも、口元は自然と、ふわりと緩んでいた。